第59話レベル93

 レベル補正プラス73。


 つまり実質レベル93。


 十分だ。


 俺はクレアから離れ、立ち上がった。


「ステラ。今助ける」


 俺は一歩前に出た。


 そこから一気に加速。


 瞬く間にステラを狙っているセリシオの前に。


「は?」


 セリシオの手を掴み、そのまま逆に捻ってへし折る。


「ぎゃああああああああああ!!」


「お前は後で料理してやる」


 パクパクと口を広げて、叫び続けるセリシオをよそに、俺はアークデーモンに向き直る。


 本能が命じるのか、アークデーモンは俺を見ると怯えた様子で一歩下がった。


 だが、ここで逃がすつもりはないぞ。


 俺は上段に構え、前へ。

 そのまま振り下ろす。


 アークデーモンも爪を振るって応戦するが、速度が違う。


 その剣速は爪ごと、アークデーモンの腕を斬って落とす。


「ddぇうdfぁjsjlうぇうfsdl!!」


 よく分からない悲鳴を上げ、じたばたと藻掻いているが、返す剣で俺はアークデーモンを一刀両断に斬り割いた。


 一瞬。


 一瞬で、あれだけ苦戦したアークデーモンを倒した。


 これがレベル90台。


 圧倒的な強さだ。


「ぎぐぅ。ひぐぅう。馬鹿な、アークデーモンがこんなに簡単にぃー」


 セリシオは折れた手首を押さえ、現状を否定しようと泣き喚く。


 だが、現実は変えられない。


 悪魔はさらさらとチリとなって消えていく。


 これが悪魔の最後か。


 あの肉体は、アルトスの身体を使ったもの。

 もうどうしようもないことだったが、アルトス。

 哀れな男だった。


 セリシオは入って来た出入口へと向かい、俺に向かって叫ぶ。


「貴様を追放してから全てが上手くいかなくなった。何故だぁ!」


「知るか。そんなことは自分で考えろ」


「い、いい気になるなよレオダス。私は貴様を許さない。必ず裁きをくれてやるからなぁ!!」


 そう言うと脱兎のごとく駆けていく。


「逃がすと思うか?」


 今の俺ならばどれだけ距離が離れていようと一瞬でゼロに出来る。


 一歩を踏み出したその時。


 ガクン!!


「なっ」


 身体にまるで力が入らなくなった。


 それどころか痛い。


 体中に稲妻を流し込まれたような痛みが駆け巡った。


「ぐぁああああ!」


 な、なんだこれは!?


『“キャリアバウンド”効果終了。レベル1までダウンし、反動があります』


 レベルが1まで下がった?

 しかも反動だと?

 この痛みが反動なのか?

 そういうことは説明文に入れておけ!


 これではセリシオを追うどころではない。


 俺はその場に倒れた。


「レオダス! 今回復を!」


 自分を回復したクレアは俺の元までやって来ると、回復魔法をかけた。


 だが、まるで痛みが和らがない。


 あれだけの傷を治したクレアの魔法が効かない。


「ぐ、これが反動か」


「レオダス! レオダス!」


 クレアが心配して何度も俺の名前を呼ぶ。


 俺は心配させないように手を軽く上げ、笑って見せる。


「だ、大丈夫だ。ちょっとスキルの反動が来ただけだ」


「反動?」


「ああ、多分自然に治るのを待つしかない。それよりクレアは他の皆を回復してくれ」


 くそ、セリシオ。


 運のいい奴め。


 だが、お前は絶対にやっちゃいけない一線を越えた。


 必ず罪を償わせるぞ。


 クレアは俺の指示に従い、アトスとステラを回復する。


 二人も俺を心配したが、怪我ではない旨を伝え、城に散らばったレッサーデーモンの駆逐を頼み、俺は壁にもたれ掛かった。


「くそ。こんなの聞いてないぞ。マジで説明付けとけ」


 少しづつではあるが、痛みが引いていく。


 “キャリアバウンド”


 頼もしいが、恐ろしいスキルだ。


 レベル93になれたのは僅か数秒でしかなかった。


 もう少しレベル10のまま待っていれば、長く保てたかもしれないが、反動がこれでは使いどころを気にしなければならない。


 城にいるレッサーデーモンはアークデーモンよりも下位の悪魔なので、騎士団長やアティがいれば難なく討伐できるだろう。


 王様も強いというし、アトス達も向かったからな。


 俺は天井を見上げ、大きく息を吐いた。


「・・・セリシオ。狂った愚者め」

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