第58話キャリアバウンド

 俺はギョッとした。


 今、進化したのか?


 まあ、戦っている最中も経験は積み上がっていくわけだけど、戦闘中に上がったのは始めてだぞ?


 “キャリアバウンド”


 起死回生となるスキルなのか?


 強引にアークデーモンと距離を取り、説明文を読む。


『任意でレベルを一時的に下げるが、一定時間後、短時間だけレベルが跳ね上がる』



 ハイリスクハイリターンを絵に描いたようなスキルだな。


「じ、時間が、稼げればいいんだが」


 アークデーモンを見る。


 ダメだ。

 とても今レベルを下がるなんて危険は犯せない。


 セリシオがまた調子に乗らない内に、アークデーモンを倒さないと。


「時間を稼げれば、なんとかなるんすか?」


 背後から声がした。

 ステラだ。


 彼女は彼女でダメージを負っているので、足取りが覚束無おぼつかない様子だ。


「何するつもりか知りませんが、時間、稼ぎますよ」


「怪我は大丈夫なのか?」


「そんなわけないでしょ。メッチャ痛いですよ。でもね、ここぞって時に動けるようには修行を積んでいます」


 頼もしい。

 彼女は一級の冒険者だ。


 だが、そんな状態で一人では・・・。


「僕も、いる」


 ゆらりと、アトスが立ち上がった。


 まだダメージは抜けていないだろうに。


 それでも、小さな勇者は立ち上がる。


「GA!」


 アークデーモンの前に黒い球が出現した。

 闇魔法か!


 それを俺に向かって放り投げる。


「“セイクリッドレイ”!!」


 アトスの光魔法がそれを貫いた。


 アトスの奴、光の上級を使えるようになってたのか!


「下がってレオダス! ここは僕らが抑える」


 逞しくアトスが叫ぶ。


 その時、後ろから火球が見えた。


「ははは! させませんよ。“ファイアボール”」


 セリシオめ、復活したか。


「弟分の見せ場を邪魔するな! “ファイアバレット”」


 セリシオの放った“ファイアボール”を俺の“ファイアバレット”が撃ち抜く。


 セリシオの顔が醜く歪んだ。


「なっ、ち、中級の“ファイアボール”を初級の“ファイアバレット”で撃ち抜いた? レオダス、貴様一体この短期間で何があった・・・」


 未だ俺がレベル19と思っているセリシオは驚くだろうな。


 そういえばアティ以外には言ってないか。


 アトスとステラも驚いてる。


「悪い、しばらくこの力は使えなくなる。耐えられるか?」


「やるよ」


「元々そのつもりでしたからね。頼みますよ?」


 俺達はお互いに頷いた。


 よし、やるぞ。


「“キャリアバウンド”、発動」


 そう言った途端、俺の体が鉛のように重くなった。


『“キャリアバウンド”発動。スキル補正マイナス10』


 マイナス10。


 つまり今はレベル10ってことか。


 70からのダウン。

 体が重く感じる筈だ。


「うおおお!」

「はあああ!」


 二人が重症の身体を鞭打って戦っている。


 俺はそれを忸怩じくじたる思いで見ていた。


 今俺が加わっても完全に足手まといだ。


 耐えろ、耐えろ俺。


「レオ、ダス」


 クレアの声が聞こえて俺は振り返る。


「クレア!」


 俺は重い足を引きずりクレアの元まで歩く。


「大丈夫なのか?」


「ええ、レオダス。回復を」


「馬鹿、自分を先に」


 アークデーモンの尻尾をまともに食らったんだ。一番の重症なのは間違いない。


 しかし、クレアは首を横に振る。


「何か、するつもりなのでしょう?」


「ああ」


 実際には、している真っ最中だ。


「だったら回復を。どっち道ここでなんとかしないとあれは倒れない」


「・・・頼む」


 俺は素直に甘えた。


 なんとしても、ここでアイツを倒す。


「“ハイヒール”」


 回復魔法が俺の右半身を包む。


 痛みが引き、身体が軽くなっていく。


 早く、早く。


「ぐあああああああ!」


「あああああああーー!」


 アトスとステラが悲鳴を上げた。


 アークデーモンに倒され、床に倒れる。


「二人とも!!」


 二人はもぞもぞと動くが、立ち上がらない。


 顔だけはアークデーモンを睨みつけ、戦意の衰えをまるで見せないその勇姿に俺は敬意を表する。


 そんなものをまるで感じない奴もいるが。


「ははははは! 無様な。これが世界を救う勇者ですか? ステラ、また偉そうに私に説教をしてみたらどうです?」


 高笑いするセリシオに、ステラは中指をおっ立てる。


「哀れ過ぎて、かける言葉が、みつからんわ、バーカ」


「き、貴様ぁ!!」


 この状況でも尚不敵とは、大した胆力だ。


「いいでしょう。まずは貴様からです。私自らが殺してあげましょう」


 セリシオは手をステラに突き出す。


 ステラは起きあがろうとするが動けない。


 限界だ!


「もういい! 早く終われ!!」


『“キャリアバウンド”、チャージ終了。レベル補正プラス73』

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