第57話狂乱の賢者

「セリシオ。お前がアークデーモンを召喚したのか?」


 俺が尋ねると、セリシオは嘲笑した。


「フッ、その通りですよ。よく出来ましたね」


「自分が何をしているのか理解しているか?」


 さっき王様に駆け寄ったのとはわけが違う。これは明確な叛逆行為だ。


 しかも、悪魔召喚は禁忌だった筈。


「あんた正気なの!? 悪魔を呼び出すなんて、極刑よ!」


 アティが叫ぶと、セリシオは再び嘲笑する。


「ははっ! 既に私は罪人。今更極刑だなどと脅されて怯えるとでも思いましたか?」


 イカレちまったか。


 俺は王様を庇う様に位置を変える。


「アティ。王様を連れて裏口から出ろ」


「で、でも」


「躊躇している時間はない。行ってくれ。騎士団長と合流しろ」


 俺の指示で、王様とアティはゆっくりと移動を開始した。


 俺はアークデーモンの動きに注意を払うが、意外にも襲っては来ない。


「ああ、行きたいのならばどうぞ? 外には私が召喚したレッサーデーモンで溢れていますがねぇ」


「な、何!?」


 そんな、いつの間に?


「生贄ならほら? そこら辺にあるでしょう? ははは」


 まさか、城にいる者を片っ端から生贄に?


 コイツ、イカレ具合が半端じゃないぞ。


「・・・待て、アルトスはどうした?」


 一緒に牢にいた筈のアルトスがいない。


 コイツ、まさか、まさか・・・。


「アルトス? ああ、いるじゃあないですか。彼を使って受肉したアークデーモンがぁ!」


「て、てめえ!」


 なんてことを。


 今、ハッキリと理解した。

 こいつにとって、仲間なんていなかったんだ。アトスもクレアもアルトスも、全部が道具でしかなかった。


 こんな奴と今まで冒険していたのか?


「・・・行くぞアティ」


 王様がアティの肩を掴み、裏口へ向かう。


「戦えない者達もこの城には多くいる。外にレッサーデーモンが溢れているのなら、俺達で助けなければ」


「分かったわお父様」


 アティはチラリと俺を見たが、アイコンタクトした後に出て行った。


 それをセリシオは笑いながら見送る。


「はは、ご立派なことです。精々足掻きなさい。出来れば私が止めを刺したいですからねえ」


「それは無いな。お前は俺が止める!」


 俺は剣を構えた。


 そして、


「僕も忘れて貰ったら困る」


 無傷のアトスもまた剣を抜いた。


 セリシオは鼻を鳴らす。


「聖剣ですか。確かに少し厄介ですね」


 聖属性は悪魔の天敵だ。


 警戒しているだろう。


 なら、


「アトス。俺が隙を作る。構えろ!」


「うん!」


 俺は足を引きずりながら前に出る。


 セリシオは馬鹿にした笑いを浮かべた。


「はははっ! 上位悪魔にお前如きが挑むと? 愚かな。アークデーモン、やれっ!!」


「GGGGGGGG!!」


 アークデーモンが俺に向かって突進した。


 ドラゴンスラッシュとアークデーモンの爪が激突する。


 金属音とは違う鈍い音同士が、部屋に響く。


 流石に重いな。


 ギギギギガ!!!! と、剣と爪の音が響く。


 高速のぶつかり合い。


 お互いの腕が霞む。


 デカくてパワーファイターと思いきや、コイツ速い!


「な、何ですって! アークデーモンと互角にやり合っている? 馬鹿な!?」


 セリシオがアークデーモンの後ろに隠れて驚愕している。


 まあ確かに、前の俺なら無理だったかもな。


 といっても、驚いたのは俺も同じだ。


 まさか、足を痛めてるとはいえ、レベル70の動きについてくるとは。


 こいつが魔王以上ってことはないだろうから、魔王はこれよりさらに強い。

 はは、正直俺なら単身魔王相手でもいけると思っていたんだが、舐めてた。


 だが、互角じゃないぞ。

 いくら速くとも、コイツは剣術を知らない。


 徐々に俺が押す。


「アトス! 来い!!」


 俺の指示でアトスが走る。


 未だ彼との連携はピッタリ。

 アークデーモンが体勢を崩したところで、アトスの聖剣をぶち込んで終いだ!


「“エアボール”」


「はっ!?」


 しまった。


 セリシオおまけを忘れていた!


 必勝のタイミングで斬り込んで来たアトスの横から圧縮した空気が命中し、アトスは吹き飛んだ。


「アトス!!」


 ゴロゴロと転がり、立ち上がろうとするが、ガクリと膝を着き、中々立ち上がれないでいる。


 くそ!


「止めです!」


 再び空気の球を撃とうとするセリシオ。


 咄嗟に俺は間に入った。


 瞬間、衝撃が横っ腹に来た。


「ごぶっ!」


 まともに食らい、俺はガクガクと膝を笑わせた。


「・・・私の魔法が直撃して倒れないですって? レオダス、貴様一体?」


 驚いてもらって恐縮だが、右半身がボロボロだな。


 セリシオが俺のタフネスに驚いている隙に、俺は剣を右から左に持ち替えた。


 アークデーモンの尻尾が伸びる。


 片足でステップをし、回避と同時に尻尾を切断。


 その尻尾をセリシオに向かって投げつけた。


「うああ!?」


 頭を押さえ、セリシオは怯えながら躱す。


 外したか。


 まあいい、あのビビりはこれでしばらく大人しくしているだろう。


「GGGGGGGGA!」


 しかし、安心は出来ない。


 アークデーモンの爪が俺に伸びる。


 ドラゴンスラッシュで受けるが、今度はさっきと逆だ。


 半身に力が入らない片手では、コイツのパワーを受けきれない。


 剣を振る度に押される。


 本格的に不味い。


 どうする?


 この状況、どう乗り切る!?


 その時、


 ピコン!


『熟練度が一定値を超えました』


『スキル、“キャリアオーバー”が“キャリアバウンド”に進化します』

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