第56話アークデーモン

 セリシオに罰が下されたその日。


 俺達は王様から晩餐会に招待された。


 次から次へと出される、見た目からして旨そうな美しい料理の数々。


 大衆食堂や酒場しか知らず、普段自分で作る料理とも言えない、質素な食事しかしてこなかった俺には、天上の御馳走と言えた。


 まあ、昔世話になった時も、宮廷料理は何回か食べたけど、今日のはその中でも一番の絶品だ。


 俺はマナーなんてよく知らないから、隣にいるアティの真似をしつつ、本当は大口を開けてバクバク食べたいところを、ゆっくりと味わう。


 料理を堪能し、酒だけになった辺りで、王様が俺に尋ねた。


「レオダスよ。これからどうする?」


「そうですね。アトスとアティにも言いましたが、依頼と言う形で誘ってくれれば一緒に冒険するのもやぶさかではない、ということになりまして」


 王様は手を叩いて大笑した。


「はは、世界を救う旅が冒険者の依頼か。面白い、ではギルドには俺の方から依頼するとしよう」


 これにアトスは意外という顔で口を開けた。


「いいんですか?」


「構わんとも。レオダス。これからもアティをよろしく頼むぞ」


「はい。アティはもう俺の相棒ですから」


 それを聞くと、隣でアティは嬉しそうに笑っていた。


「むー」


 何故かクレアがぷりぷり怒っているのは何でだろう?


 そんな話をしていたその時。


 ドーーーーーーーーーーーン!!


 凄まじい振動がこだまし、城がぐらぐらと揺れた。


「「「なっ!!」」」


 地震ではない。


 俺は咄嗟に隣にいるアティの頭を押さえ、伏せた。


「何事だ! 敵襲か!!」


 王様が叫ぶと、一人の兵士が大慌てでこちらに駆けて来た。


「陛下! 化け物です。地下から化け物がぁ!!」


「化け物。魔王の刺客か!?」


 こうしている間にも振動は辺りに響き、徐々に徐々にこちらに近づいてくる。


「王様。ここは危険です。今すぐ避難を!」


 俺が叫ぶと、王様は冷静に頷き、裏口から出ようとした。


 しかし、それよりも早く。


 ガゴーーン!! と、轟音が響き、正面の扉が吹き飛び、その化け物は現れた。


「なんだ、こいつは」


 それは銀色だった。


 金属とも言えそうな化け物は、二本の角を生やし、目は爛々と赤く輝き、体長三メートル強。

 俺の腰回りはありそうな尻尾を生やしており、衣服を纏ってはいなかった。


「あ、あれはアークデーモン!!」


 クレアが叫ぶ。


「なんだって!?」


 あれが、アークデーモンだと?


 魔界の住人の中でも上位に位置する悪魔。


 なんでそんなのがこの城にいる?


 魔王が軍勢を伴ってやって来たのか?


 いや、それならばもっと前から騒ぎになっている筈。


 こいつが単体でやって来た?


 一体何処から?


「dじゃjそうらおうあfじゃdがおる!!」


 滅茶苦茶な言葉とも言えない声を発し、それが動いた。


 料理が並んだ長テーブルを片手で掴むと、それを横薙ぎに振り回したのだ。


「王様!!」


 俺は長テーブルを足で止めた。


 メキリ、と。


 俺の足が嫌な音を上げる。


「ぐぅ!」


 それでも俺は長テーブルを片足で粉砕。


 後ろにいる王様の安否を確認する。

 よし、無事だな。


 俺が床に転がっているドラゴンスラッシュに駆け寄ろうとすると、先程痛めた足が悲鳴を上げる。


 いっつぅ!


 角に当たったのがいけなかったか。


「レオダス!」


「ばっ!? こっちに来るなクレア!!」


 俺を癒そうとしてこっちに走って来たクレアに向かってアークデーモンは長い尻尾を鞭のようにして、クレアを強かに叩いた。


「がっ!」


「クレア!」


 吹き飛ばされ、壁に激突すると思ったあわやその時、ステラがクレアを抱き留め、クッションとなる形で壁に衝突した。


「ごふぅ!」


 二人はがくりとその場に倒れる。


「・・・ったく。だから、むやみに飛び出すなって、言ってんすよ」


 口から血を垂らしながら、ステラは軽口を叩く。


「ステラ、無事か?」


「・・・この全身を痛めた感じを無事と言えるか微妙ですけどね。治してもらおうにも、クレア、気を失っちゃったし」


「クレアは?」


「生きてます。でも下手に動かせないな・・・」


 くそ!


 俺はドラゴンスラッシュを拾う。


 混乱している中、パチパチとその場にそぐわない乾いた拍手の音がした。


「いやー、先制で全滅させるつもりでいたんですけどねぇ。よくも耐えたものです」


 楽しそうな声でやって来るその人物は、


「セリシオ!」

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