第50話ステラの提案

「アトス、クレア・・・」


 俺の目の前にアトスとクレア。

 それと知らない女性がいた。


 なんでこの二人がここに?


 この辺には勇者が冒険するような何かはなかった筈だが。


 それに、アルトスと、あいつ、セリシオの姿が見えない。

 一体何処へ?


「あ、ああ、あああああ」


「クレア?」


 クレアは震え出し、涙を浮かべた。


 なんで?


 なんでそんなに嬉しそうな顔を・・・。


 百歩譲って気まずそうな顔をするのは解かる。


 優しいクレアとしたら俺を追放したのは気持ちのいいものではなかっただろう。


 だが、この反応は一体?


「レオダス!!」


「うぉっ!?」


 いきなりクレアが俺に抱き着いてきた。


「な、なぬぅ!!」


 突然のことで驚く俺、アティは目を三角にする。


 なんか後ろにいるアトスは嬉しそうに笑い、知らない女性は面白そうに見つめている。


「生きてた。生きていた。ああ、レオダス、生きて」


「お、おお。なんだなんだ?」


 生きていたって、そりゃ生きているだろうよ。


 なんで俺が死んだみたいに言ってるんだ?


「はーーーい、いつまでくっついてるのよ! はーなーれーなーさーいー!」


 なんだか大変お怒りのアティが、俺達を引き剥がした。


 お、おお。


 そういえば、ずっと抱き合っていたな。


 というか、相変わらず胸が大きいなクレア。


「う~~」


 クレアを睨み、もっと具体的には胸を睨みつけるアティは唸り声を上げ、自分の胸の辺りを手でスカスカしている。


 大丈夫だアティ。

 希望を捨てるにはまだ早いぞ!


「おほんえほん! このあたしを無視するとはいい度胸じゃない。このあたしの顔を見忘れたかー」


 やたらと偉そうに、アティは自分に注目を集めさせた。


「あ、貴方はアティシア王女殿下!」


 クレアは驚き、小さく会釈をし、アトスを居住まいを正した。


 知らない女性は「えっ、えっ?」と二人とアティを交互に見つめている。


「あらあらあら。やっと気が付いたかしら。あたしを無視してレオダスと乳繰り合っていたクレアさん」


「ち、ちちっ! 違うんです」


 動揺しまくるクレアにアティは鼻を鳴らして腕を組む。


「ふん。随分と嬉しそうじゃない。レオダスを追放したくせに」


 三人はハッと真剣な顔をした。


「違うんです! 私達は貴方を追放などしていません」


「・・・どういうことだ?」


 それから、クレアはセリシオのことと、王様が話したという真実を俺達に伝えた。


 戸惑っていた俺達は、真相を聞き、目を見張った。


「な、なんじゃそりゃーーー!!」


「わっ!!」


 アティは目を三角にして、怒りを爆発させた。


「なんなの! なんなのあのセリシオってのは! よりにもよってレオダスを亡き者にするなんて」


「いやいや、別にホントに殺したわけじゃないっすから」


 その時、ずっと気になっていた女性が見事なツッコミを入れた。


「そういえば、君は?」


「おっと、そうでした。始めましてレオダスさん。あたしはステラ。あなたの代わりに勇者パーティーに引き込まれた、あなたのファンです!」


 そう言って、ステラは屈託なく笑った。


「俺のファン?」


 この子、何歳くらいだ?

 アティと同じくらいか?


 とにかく知らない子なんだが、どうやら俺のことを知っているらしい。


 それに気になることを言ったな。

 俺の代わりにパーティーに加入したのか。


「彼女はとっても優秀な武闘家なんだ」


 アトスが誇らしそうにそう言った。


 ふふ、自分の好きな人を本当に誇らしそうに話すのは相変わらずだな、アトス。


「そう。そうなんです。彼女のおかげで私達はレオダスが死んでいないと気づくことが出来たんです!」


「そう、なのか?」


 クレアは興奮気味にそう言った。


 なるほど。

 じゃあ、今ここの二人がいるのは、この子のおかげってことか。


「そうか、それじゃあ俺は君に感謝をしなければならないな。ありがとうステラ」


「はっはっは。そうですね、とっても感謝してくださいよ」


 不思議な子だな。

 おちゃらけているのに、嫌味ではない。


「まだ幼いのに、大したもんだ」


「あん?」


 おや、なんか怒った?


「あたしこれでも20なんすけど」


「そ、そうなのか?」


 いいところ17くらいだと思った。


「まー、童顔て自覚はあるからいいですけど」


 ぶーぶーと文句を言いながら、ステラは俺を許して(?)くれた。


「あの、それでなんですけど。なんで、アティシア王女がレオダスと一緒にいるんですか?」


 そういえばさっきからクレアはチラチラとアティを見ているな。


「ああ、アティは」


「・・・アティ」


 クレアはどこか寂しそう、いや違うか、切なそうに聞いている。


 なんだろう?


 ああ、王女であるアティを愛称で呼んだから不審に思っているんだろうか?


 これに何故かアティはドヤ顔で答えた。


「ふっふっふ。よくぞ聞いたわ。あたしはレオダスと一緒に冒険者になったのよ!」


「え、ええ。それは国王様に聞きましたけど・・・」


「レオダスと一緒にいたいからね!」


「ええっ!?」


 アティがそう言うとクレアは青天の霹靂の如く驚いた。


 ふふ、アティも冒険者になって俺と冒険をしたかったんだな。


 まあクレアの気持ちも解るぞ。

 王女が冒険者になって俺と冒険したいなんて驚くよな。


「あたしはレオダスと一緒に冒険者になった。つまりはあたしはレオダスのパートナーということよ!」


「パ、パートナー!?」


 ズドドドドン! と、


 まるでそんな擬音が聞こえてきそうな程、クレアは驚いていた。


「生涯を共にするパートナーよ!」


「ええええええええええーーー!!」


 や、いくら何でも生涯ずっとかどうかは分からんぞ?


「ふっふっふ」


「むむむ~」


 なんだろう、火花が見える様だ。


 よく分からんが、ここで俺が出ると良くないことが起こる気がする。

 つまり、放って置こう。


 ところで、何故ステラは面白そうに笑っているんだろう?


「あの、レオダス」


「ん?」


 アトスは真剣な目で俺を見た。


「解ったんだ。レオダスがいないと僕らは全然大したことなかった。だからどうか、また僕らと冒険してほしい」


「・・・アトス」


 そうだな。

 アトスもクレアも俺を追放するつもりなんてなかったんだ。


 だが、


「セリシオはどうする? あいつは俺の再加入なんて絶対に認めないだろう?」


「・・・それは」


 クレアは言葉を詰まらせた。


 どちらにしろパーティーはバラバラになってしまう。


 だったらステラが加わった状態で再スタートしたほうが・・・。


 俺がステラを見ると、俺の意図をくみ取った様子で、しかし首を横に振る。


「あー、あたしはクビになりました」


「えっ!?」


 聞けば彼女はAランカー。それにそんな肩書なんて関係なく、彼女は強い。

 ふざけているように見えて、その立ち振る舞いには隙がない。


 その彼女が、クビだと?


「あたしじゃレオダスさんの代わりはとても務まりません。てか、意見することすら許されませんし、後ろから撃たれそうでやってられません」


「・・・セリシオか」


「あたし思うんですけど、言っていいっすか?」


「何?」


 アトスにステラに向き合って聞いた。


「追放しちゃえばいいんじゃないっすかあのモノクルを」

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