第49話再び出会う

 俺達は、一度カルルタート山の中腹でキャンプをし、なんとか裾まで戻って来た。


「やっと帰ってこれたね」


「そうだな」


 ここまで来れば、危険なモンスターは現れないだろう。


 とはいえ、油断は禁物だ。


 俺まで油断したら、アティを叱る人間がいなくなってしまう。


「こーら、帰るまでがクエストだぞ」


「う、わ、解ってるよ」


 気が抜けていたな。


 まあしょうがない。


 戦闘技術はともかく、冒険者の経験はまだまだ素人だ。


 というか、冒険自体が初めてだ。


 初めての依頼としては、余りにも難易度が高すぎた。


 だから、叱るべきところは叱って、俺が周りに気を付ければそれでいい。


「来た時にも立ち寄った村にまた寄ろう。しっかりと休んでから王都に帰ろうか?」


「うん。そうだね」


 ベッドで寝たい。


 まだ昼だけど温かい寝床で眠りたい。


 俺がそうなんだから、アティもだろう。


 早く休ませてあげたい。


「ありがとね」


 アティは俺の気遣いが解かったのか、ニコリと笑った。



 俺達は、最寄りの村に到着した。


 一先ず宿を取って、美味しい飯を食べよう。


「アティは庶民の食べ物ってどうだ?」


 王宮の料理ばっかり食べていたアティには庶民の味は大味だっただろうか?


「とっても美味しいよ。って、それにあたしだって豪華な食事ばっかりしていたわけじゃないよ?」


「そうなのか?」


 ずっと王族っていうのは晩餐会で食べるような食事ばかりしているものだと思っていた。


「お父様はそんなに食には興味がなかったし、豪華な食事ばかりではそれはそれでつまらないし」


「そういうものか?」


「それにあたしはちょこちょこ城下に降りていたし」


 そう言えば。

 俺は聞きたかったことをアティに聞いた。


「なんでアティは、城下に、俺の家の前にいたんだ?」


「え!?」


 そんなに驚かんでも。


「そ、それは」


「それは?」


 なんでそんなに挙動不審になるんだ。


 意味なく辺りを見渡して、視線が泳いでおろおろしている。


「あー、そのー、レオダスがいればいいかなって」


 俺は驚いた。


 じゃあ、アティは帰って来るかも分からない俺を探して城下に降りて来ていたってのか?


 なんでそんなに俺を。


 アティはもじもじしながら、口を開く。


「覚えている? 初めて会った時のこと?」


「ん、ああ」


 俺はその当時のことを思い出していた。


 確かあの頃のアティは、王宮の作法を覚えている途中で、背伸びをしていた頃だったか。


 随分と大人びているなと思ったものだ。


 これが王族というやつか、と。


「あの頃は、一生懸命だったけど、なんかつまんなくてさ。レオダスが来て、知らない世界を知れて凄く新鮮で楽しかったな」


「そうだったそうだった。外の世界を教えてくれってせがまれて、よく話をしたものだったな」


 うんうんとお互いで頷き合った。


「その時に、レオダスに言われたんだっけ。『そんな大人びる必要があるのか』って」


「そんなこと言ったっけか?」


 流石に当時のことを一語一句は覚えていない。


 しかし、それが不満だったのか、アティは不満顔だ。


「覚えてないんだ・・・」


「お、覚えているとも!」


 すっとぼけた。


「ああ、そういえばー」


 そして、これ以上この話題を引っ張ると良くないことが起こると理解して、あからさまに話題を変えた。


「俺達ってAランクの依頼を達成したんだよな。Aランクの成功報酬ってどれくらいもらえるんだろうな?」


「うーん。白金貨10枚くらい?」


「流石にそんなにはもらえないと思うぞ!!」


 やはり王女様。


 庶民とは金銭感覚が違う。


 だが、食事の時や道具の買い出しの時、一緒に会計をしたんだから、少しづつ庶民の金銭感覚を学んでいる筈なのだが。


 あれか?

 ドラゴンスラッシュの値段が普通と考えているのか?


 宿屋に入って、受付を済ませようとした時だ。


「「レオダス!!」」


 ビクリと身体が震えた。


 この、声は?


 俺が振り返ると、そこには懐かしの仲間達、アトスとクレアがいた。

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