第40話カルルタート山の攻略は難しい2
アティが寝静まって何時間経ったか。
実は彼女には朝方まで寝かせてやるつもりでいた。
ここまでよくやってくれた。
本当ならずっと寝かせてやりたいが、流石に俺も少しは寝ないとヤバい。
火に薪をくべ、辺りを見渡す。
落ち着いているが、気は常に張っている。
今の俺なら広範囲まで知覚できる。
パチっと、薪が跳ねた。
アティの方を見たが、起きる気配はない。
再び炎を見つめようとしたその時、
「起きろアティ!!」
大声を上げ、アティに呼び掛ける。
彼女は跳び起きた。
「な、何。何が起きたの!」
「敵だ!」
「ど、何処?」
俺は気配のある方を見つめ顎を上げる。
アティもそちらを見るが、特に何も見当たらない。
「何もいないと思うけど」
「いや、いる」
俺は剣を抜き、やって来る敵を迎え撃つ。
やって来たのは、
「・・・フングスか」
言ってみれば巨大なキノコの化け物だ。
4メートルってところか。
「やるね。“ストーンバレット!”!」
石弾を飛ばすアティ。
ぶぉお~と相手は叫ぶ。
すると大きな体が震え、胞子が辺りに舞う。
これは錯乱の毒か。
石弾の方はあいつから伸びている枝で叩き落とす。
何故キノコが枝を生やしているんだ!
「っつ、この胞子は」
アティは焦った声で叫ぶ。
「アティ、息を止めろ!」
俺の指示に従ってアティは息を止める。
俺は風の結界を張り、胞子を中高く巻き上げた。
なんとかこれでフングスの攻撃は防いだ。
奴は胞子の攻撃が効かないと解るや、枝を鞭のように振り回し、俺達に迫る。
「“ファイアボール”!!」
打ち出された極大の炎。
それがフングフを飲み込み、瞬時に辺りを焼き尽くす。
胞子を全て巻き上げ、フングフ本体も倒した。
辺りを観察し、まだ敵がいないかを見極め、いないと解るとやっと息を吐く。
「大丈夫かアティ」
「うん。大丈夫」
「胞子は吸ってないよな?」
「大丈夫、と、思う」
初めての経験だからな。
分からないのは仕方がない。
「幸いというべきか、使ってきたのは錯乱の毒だ。万が一吸っても命に別状はないと思うが、念のため毒消しのポーションを飲んでおこう」
「そうだね。ふー、緊張した」
アティはへろへろと地面に膝をつく。
確かに、強敵というよりは変わり種といえる相手だった。
もしあれが複数いて、使ってくる胞子が強力な毒だったら脅威となっただろう。
俺も呪文を唱える為に口を開いたからな。
胞子が行き届く射程外だとは思うが、念のために飲んでおいた方がいいだろう。
「ああいった、力はそれ程でもなくとも、危険なモンスターは存在する。慎重に、時に大胆に行動しよう」
「・・・難しいね」
「そうだな、でもそれが出来なければ死ぬ」
俺が厳しい現実を突きつけると、アティはゴクリと息を吞んだ。
やはり彼女は安易というか、命の危険を肌で感じてはいなかったのだろう。
或いはよく分からない俺への信頼が、大丈夫だという安心に繋がったのかもしれない。
だが、そんなことはないんだ。
俺は神様じゃない。
例え最強になったと仮定しても、それでも護れないものはあるんだ。
その為には彼女にもしっかりと自覚をしてもらわなければ。
「怖いかアティ?」
「だ、大丈夫」
肩に力が入った状態で彼女は言った。
「強がらなくていい。本当を言えば俺は怖い」
俺の言葉が意外だったのか、アティは目を見開いた。
「え、レオダスも怖いの?」
「そりゃあそうだ。まだ死にたくないしな」
「じゃなくて、死ぬかもしれないって思ってるの?」
ああ、そういう意味か。
本当に彼女の俺への謎の信頼は絶大だな。
「勿論だ。俺は無敵じゃない。傷を負えば死ぬし、さっきのだって猛毒なら危なかった」
現実をようやく理解し始めたのか、彼女の顔が青ざめる。
「それでも俺は君を護る為に最善を尽くす。だから頑張ってついて来てくれるか?」
酷な言い方だろうか?
ここで引き返せと言う選択肢もあったかもしれない。
だが、俺はどうやら彼女を頼もしく思い始めているようだ。
やはり、一人で戦うよりも仲間といた方が俺には心強いらしい。
アティは嬉しそうに頷く。
「勿論!」
「ありがとう。それじゃあ移動しようか」
「もう移動開始?」
すっかり深夜だ。
移動は危険といえるのだが。
「さっきの戦闘で周りにモンスターや動物が集まってくるかもしれない。逆に怯えて近づかなくなればいいが、獲物がいると思う好戦的な奴もいるだろうからな」
「そっか。ここはもう危険なんだね?」
「そうだ。だから、もう一度寝るにしても、一度ここから離れよう」
「そうだね。あ、今度はあたしが見張りやるね」
少し、考えた。
朝方まで見張りをやるつもりでいたが、ここで断ると彼女はごねそうだ。
幸い、俺の神経は冴えわたっている。
例え寝ていたとしても、何かあれば即起きるだろう。
「頼めるか?」
「任せて!」
頼もしいな。
「それじゃあ、移動しよう」
俺達はしばらく移動し、再びキャンプを張った。
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