第38話アティに告白(嘘です)

「アティ、そっち行ったぞ!」


「うん。“ウォーターレーザー”!」


 貫通力をもった圧縮された水がデーモンベアを貫いた。


「よし」


 アティの戦闘技術は確かなものだ。


 俺はアティの気配を後ろに感じながら、目の前のキンググレムリンを斬り捨てた。


 ドラゴンスラッシュ。

 素晴らしい切れ味だ。


 これまで数十体のモンスターを斬ったというのに刃こぼれ一つない。


 これで辺りのモンスターは一掃した。


 アティは汗を拭い息を吐く。


「ふぅ。やったね!」


 俺に向けてピースするアティは先程までの戦乙女とも思える人物ではなく、年相応の女の子だ。


 俺も笑顔で答えー


「アティ!」


「えっ?」


 木の後ろからどろりとした何かがアティを狙っている。


 あれはポイズンスライムか!


 魔力を練る。

 そして、手を前に突き出す。


「“ファイアバレット”!!」


 いくつもの炎の弾が、アティの後ろにいる、ポイズンスライムに向けて放たれた。


 見事命中。

 瞬時に焼け焦げた。


「ふぅ」


 俺は周りを見渡し、本当に何もいないことを確認すると息を吐いた。


 アティは顔を真っ青にしている。


 俺は彼女に近ずくと、コツンと頭を叩いた。


「あてっ」


「油断するな」


「・・・ごめん」


 アティはシュンとする。


 でもこれはちゃんと叱らないと。


「いいか、今のは俺がいなかったら命の危機だった。それを忘れるなよ」


「ありがと! レオダスは命の恩人だね!!」


 アティはそう言うと俺に飛びついた。


「うわっと、一々抱き着かなくていいよ」


「えへへ、だって命の恩人だもん」


 俺の服にスリスリしてくるアティをどう引き剥がそうか頭を悩ませる。

 ここは力を掛けずにゆっくりと。


「仲間なんだ。助け合うのは当たり前だろう」


「でも感謝はしないと、当たり前でしょう」


「――」


 一瞬セリシオのことが頭に浮かんだ。

 感謝なんて一度もしなかったな。


 俺が急に固まったからか、アティは首を傾げる。


「何?」


「いや、当たり前だな!」


「うん、当たり前だよ!」


 俺達は二人で笑い合う。


 そして、アティは後ろを振り返ると、“ファイアバレット”が通過した跡を見る。


 木や枝があったはずだが、全て燃えている。


 アティはゴクリと息を吞む。


「本当にレベル70なんだね」


「ん、ああ。ほんとにな、自分でもびっくりだよ」


 初級魔法にも関わらず、その威力は上級魔法にも劣らない。


 前以上に感覚も研ぎ澄まされ、後ろにいるアティの気配を感じることが出来る。


「告白された時は冗談かと思ったよ」



*********


 カルルタート山出立の前日。


「アティ、実はな、君に告白しなければならないことがあるんだ」


 二人で明日の準備をしている時に、俺はそう切り出した。


 アティはボトンと持っていた道具を落して、ポカンとし、


「えええええええええええええええーーーー!!」

「うわ、うっせぇ」


 いきなり大音量が広くもない部屋にこだまする。


「こ、告白?」


「ああ、重要なことだ」


 アティはゴクリんちょと喉を鳴らす。


(き、来たわ。遂にこの時が来た。まさかこのタイミングで? いえ、大きなクエストに臨むからこそ今、なのかしら?)


 何をぶつぶつと言っているんだ?


 彼女はスーハ―スーハーと深呼吸をしている。


 これから俺が言わんとしていることを察してくれているのだろうか?


「さ、さあ。来て!」


「お、おう」


 なんだか凄い前のめりだぞ?


「その後の準備も出来てるから!」


「お、おう?」


 準備?

 ああ、この後の旅の準備か。


「このことは二人だけの秘密で頼む」


「な、なるほど。あたし王女様だし、まずは二人の間だけってわけね」


「ああ、じゃあ言うぞ?」


「う、うん。来て!!」


 何故顔が真っ赤なんだろう?


「俺が勇者パーティーから追放された後にな」


「え? うん? それが何?」


 アティはキョトンとしている。


「その後で新たなスキルが開花した」


「え、あ、うん」


 あれ、どうも反応が鈍いな。


「えっと、告白って何?」


「今正にしてるだろ」


 ・・・・・・・・・。


「新しいスキルを獲得したって話?」


「ああ、そうだ」


 ず~~~ん。


「え、なんだどうした!?」


 急にアティのテンションが下がった。

 下がりまくった。

 なんでだ?


「なんでもない、うん。なんでもなかった。何もなかったの」


「あったんだ。すげーことが!」


「ふーん」


 もっと興味を持ってくれ。


「・・・分かった。聞く。凄いスキルなのね?」


「あ、ああそうなんだ。スキル名が“キャリアオーバー”って言って」


「知らないスキルね。どんな効果なの?」


 知らなかったからか、アティもちょっとは興味が出たみたいだ。


「レベル補正プラス50なんだ」


「げほっがほっ!!」


 いきなりせき込んだ。


「お、おい!」


「冗談じゃないでしょうね!?」


 その反応は解る。


 俺も誰かがそう言ったらこの反応をするだろう。


「ああ、冗談に思えるのは当然だが、冗談じゃないんだ」


「レオダスってレベル20なんだっけ?」


「ああ」


 アティはブルリと震えた。


「じゃ、じゃあ実質レオダスのレベルは70ってこと!?」

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