第37話賢者サイド セリシオとアルトスの焦燥

 賢者サイド


「くそ! いねぇ!」


 アルトスは汗をぬぐう。


 私達二人はステラを探して町を歩きました。


 ですが、あの女は見当たりません。


 全くとんでもない女です。


 完全に逆恨みもいいところ。


 無能の為追放されたというのに、それを悪意のある噂として広めるなど、あるまじき蛮行。


 あの女を探し出し、口を封じなくては!


 ですが、あの女は見当たらない。


 いったい何処へ行ったというのです?


 ここはあの女が住んでいる町。

 テリトリーといっていいでしょう。


 その中から探し出すのは至難の業。


「おい、あいつの家とか知らねーのかよ?」


「知るわけがないでしょう」


 クレアの家なら知りたいと思いますが、あんな女の家を知ってどうしろというのですか。

 馬鹿なんですか?


「これだけ探してもいねーとなると、酒場とかに出歩いてるとは思えないぞ」


「・・・自宅にいるという可能性が一番高いでしょうね」


 とすると、今日探し出すのは極めて困難と言えるでしょう。


 焦燥でじっとりと汗が身体に滲む。


 このままではこの町にはいられなくなる。


 どうするのです。

 あのダンジョンはまだ攻略していないというのに。


 全てあの女のせいです。

 いえ、そもそもはレオダスのせいです。


 レオダス。

 あの男がそもそもこの世界に存在しなければこのようなことにならなかったというのに!


「・・・仕方ありません。今日はもう宿に戻りましょう。この件を勇者様とクレアに伝え、明日また探すのです」


 私がそう提案すると、アルトスはぐいっと汗を拭い、「ああ」と応えた。


「くそが! あの女絶対に許さねーぞ」


 私達は怒りに燃え、力なく宿に引き返した。




 宿に戻ると、既にアトスとクレアの部屋の灯りは消えていた。


 妙ですね。

 アトスはお子様だから分かりますが、クレアまで。

 消灯にはいささか早すぎます。


 アルトスは不満気に口を曲げた。


「んだよ。俺らがずっと走りっぱなしだっていうのに、二人はスヤスヤおやすみかよ」


「起こしますよ」


 私がそう言うと、ふいっとアルトスが私を見ます。


「わざわざ起こすのかよ」


「当然でしょう。これは我々パーティーにとっての一大事。情報は共有する必要があります」


「しょうがねえな。んじゃ俺がクレアを起こすぜ」


 は?

 何を言っているのですかこいつは。


「控えなさい。クレアは私が起こします」


「んだ、てめえ。クレアの寝顔が見たいってのか?」


「無粋な。だからあなたには任せられないのです」


「ああ?」


 馬鹿が。

 こんなところで諍いをしている暇などないというのに。


「あなたは勇者様を起こしなさい。大丈夫。すぐに合流しますよ」


「・・・チッ。次があれば俺に譲れよ」


 譲るわけがないでしょう。

 この猿が。


 さて、ではクレアの寝顔を拝見しますか。


 私は舌なめずりをすると敢えてノックせずにクレアの部屋に入った。


 そっとベッドに視線を向ける。


「うん?」


 暗くてよく見えませんが、ベッドの上には誰もいないような。


 仕方なく私は灯りをつけました。


 ですが、


「・・・クレア?」


 誰もいない。


「クレア? どこです」


 部屋を見渡したがクレアはいない。

 一体何処に?


「おおいセリシオ!」


 廊下から血相を変えてアルトスがやってきました。


 となりにアトスはいません。


 嫌な予感がする。


「いねえ。勇者様がいねえぞ!」


「・・・そうですか」


 やはりいない。


 二人で一体何処へ行ったのです?


「まさか、勇者様を連れて酒場にでも行ったってのか?」


「あなたではあるまいし、あり得ません」


 何処へ行った?


 すぐ戻って来るでしょうか?


 嫌な、嫌な予感がする。



 クレア視点


「置手紙くらいはした方が良かったでしょうか?」


 私がそう言うと、ステラさんは首を横に振ります。


「そんなこと言ったら追って来ちゃいますよ」


「でも、いずれは気づく」


 勇者様がそう言うと、ステラさんは肩をすくめた。


「そうですね。だからこそ、少しでも時間を稼がないと」


 なんだかそわそわしてきました。


 私は息を吐き、呼吸を整えます。


「ほ、本当に二人を置いてきてしまって良かったんでしょうか?」


 落ち着きません。

 二人を裏切ってしまったようで。


 そう。

 私達はセリシオさんとアルトスさんを残し、あの町を去りました。


 ステラさんと一緒に王都に行くために。


「だから言ったでしょ。あの二人にレオダスさんが生きてると言っても何も変わりませんよ。むしろ悪くなります」


「それは・・・」


「モノクルはあたしの推理を突き付けても絶対に認めませんよ。あの筋肉だるまもレオダスさんが生きてると言ってもいい顔はしないでしょうし」


「は、はい」


 ああ、アルトスさんも筋肉だるまに。


 私は後ろを振り返ります。


 暫く滞在した町が小さくなっていく。


 レオダスが生きていると確かめたい。

 でも、二人を置いていく罪悪案で胸が苦しくなる。


「クレア」


 私が迷っていると、勇者様が笑いかけてきました。


「今はレオダスを探し出そう。それをセリシオに突き付けてとっちめてやるんだ」


 勇者様が珍しく少年の顔を見せました。


 思わず私も笑ってしまいます。


「ま、レオダスさんを見つけてから考えましょ。ここから一番近い人の密集地は王都になりますから、レオダスさんが向かうとしたらあそこの可能性が高いです」


 私はコクリと頷きました。


「見つけ出します。必ずレオダスを!」

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