第36話賢者サイド クレア視点 ステラの提案

 賢者サイド


 クレア視点


「死んだんですかね? レオダスさんは」


 意味が分かりません。


 私は悲しくて俯きました。


「はい、逝ってしまいました」


「ふーん」


 ステラさんが腕を組んで唸った。


「あの、ステラさんは何が言いたいんですか?」


「や、ちょっと確認したくて。死んだって言ったのはあのモノクルでしょう?」


 とうとうセリシオさんはステラさんの中でモノクルになってしまいました。


 可哀想とは思いますけど、仕方ありません。


 セリシオさんに非があると思いますし。


「ストレートに言いますね。あたしはレオダスさんは生きていると思っています」


「えええええええええええ!!」


 青天の霹靂です。


 なんで?


 どうして?


「しー、しー。クレアさん声落として」


 ステラさんは口に人差し指を当てました。


 そうでした。


 ステラさんはこっそり来てくれたんでした。


 私は慌てて口に手を当てます。


「で、でもなんでそう思うんですか?」


 それが本当ならこんなに嬉しいことはありません。


 私は期待を込めてステラさんの言葉を待ちます。


「ぶっちゃけ勘です」


「か、勘?」


 ちょっぴりがっかりしました。


 それはあまりにも根拠に乏しいです。


 でもステラさんは動じません。


「ただの勘じゃないですよ。あたしはこれまで割と濃厚な人生を過ごしてきましたからね。そういった経験に基づく勘です」


 なんだかそう言われると信じてもいい気がしてきました。


 ステラさん、頼もしいです。


「それは本当なの?」


 その時、ドアを開けて勇者様が部屋に入って来ました。


 いきなりの登場に私はびっくりしましたが、ステラさんは気にしていません。

 おそらく近づいて来た気配を察したのでしょう。


「勇者様。お休みになっていたんじゃ」


「クレアの部屋から話し声が聞こえてね。それより、」


 勇者様は私を見て笑い、ステラさんに視線をうつします。


「教えて。レオダスが生きているというのは本当?」


 その質問にステラさんはぽりぽりと頬をかきます。


「や、あくまでも可能性ですよ可能性。これでぬか喜びされても困るんで、それは頭に言っておきますね」


「それでも、」

「知りたいです」


 私と勇者様は迷わず答えました。


 ステラさんは頷きます。


「根拠を上がろと言われれば上げられます。まずレオダスさんの遺体を誰も見ていないってことです」


「それは、モンスターの攻撃で跡形もなく吹き飛んだと聞きました」


「そうですよね。でもそれならおかしくないですか? そんな凄い攻撃が隅っことはいえ町で起こったんですよ? なんで誰も気が付かないんですか?」


「「あっ」」


 そうと言われれば確かにその通りです。


「しかも、モンスターは飛行してたんですよね。つまり上から下に撃った。あたし、気になってこの辺り調べたんですけど、地面が陥没した跡なんて何処にもありませんでした」


「「・・・」」


 私も勇者様は絶句します。


 そうです、なんで気が付かなかったんでしょう。


 そんなことが起こっていれば大惨事になっていた筈です。


 レオダスの死に心を引き裂かれ、何も考えられなくなっていたのです。


 なんて迂闊。


「他にもですね、そのモンスターとモノクルが一対一でやり合って撃退したってのも変な話ですよ」


「・・・セリシオの力は本物だよ」


 これには私も同意せざるを得ません。


 セリシオさんは中級までの魔法なら光属性を除いて全て使えます。


 あの若さでそうそう出来ることではありません。


 これにはステラさんも同意してくれます。


「そうですね。でもあれって、前衛が護ってくれている間に呪文を唱えて撃つっていう極めてオーソドックスな魔法使いスタイルじゃないですか? ソロでレオダスさんにも気づけずに迫ってくるモンスターと戦えるとは思えないんですよ」


「・・・っ」


 確かにその通りです。


 魔法剣士のレオダス。戦士のアルトスさん。勇者様。この私でさえも一対一で敵と相対した時がありましたが、セリシオさんがそうなったことなど、私が記憶している限り、一度もありません。


 先日もセリシオさんはステラさんに圧倒されています。


 視線を勇者様に移しましたが、どうやら同じ結論のようです。


「そして、あたしの追放。あれはね、とにかく自分に刃向かう、思い通りにならない人間は出て行けってタイプなんです。レオダスさんもそうでしょうね」


 ステラさんは肩をすくめます。


「以上の理由からですね。レオダスさんの死は極めて疑わしい。モノクル野郎のでっち上げの可能性が高いって思うわけです」


 愕然としました。


 なんで、なんでこんなことを。


「なんでそんなことをセリシオは言ったんだろう?」


 そう、それです。


 セリシオさんは何故仲間のレオダスが死んだなどと言ったのでしょうか?


 これにステラさんはため息で応えます。


 私また何かおかしなことを思ってしまったでしょうか?


「純真な二人には解らないかもしれないですけど、言ったでしょう。ああいう自己顕示欲の強い構ってちゃんは自分より目立つ存在がとにかく邪魔なんですよ」


 聞いてもよく解りません。


 やはり私は人を見れていないのでしょう。


 悔しさと切なさが胸を締め付けます。


「レオダスさんは実質パーティーを引っ張っていた。優秀な自分ではなく。それが許せなかったんです」


「そんな理由で・・・」


「そんな理由、ですか。いますよ割と、そんな理由で飛ばされる人間て」


 そんな、そんな悲しいことってあるんでしょうか?


 余りに理不尽です。


「レオダスさんの成長が頭打ちだったのは好都合でした。あいつはそれを理由にレオダスさんを追放した。これがあたしの推理です」


 聞けば聞くほど、ステラさんが正しく思えてきました。


 喜びの想いが、身体を駆け巡ります。


「レオダスが生きてる」


「や、あくまで仮説ってことを忘れないで下さいね?」


「は、はい」


 そ、そうでした。


 これで本当にレオダスが天に召されていては、やるせなくておかしくなってしまいます。


 あくまでも、冷静に。


「あのモノクル。自分以外は馬鹿だと思ってますからね。こんなガバガバな工作でも誰も気が付かないと思っていたんでしょう」


  言葉もありません。


 実際に騙されていたのですから。


「で、ですよ。勇者様も来た所であたしから一つ提案があります」


「どんな?」


 勇者様が訪ねます。


 何故でしょう。

 ステラさんの顔が悪戯をする子供の様。


「それはですねー」

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