第25話賢者サイド クレアが怒った

 賢者サイド


「あなたの様な輩は我々には不要です。出て行きなさい」


 私はステラにそう告げました。


 当然でしょう。


 この私に刃向かったのですから。


 私は席を立ち、上からステラを見下ろしました。


 意外にも、彼女は特にこれといった反応はしなかった。


「そうだぜ! てめえなんて要らねーんだよ!」


 アルトスも私に賛同します。


 こんなバカでも賛成票を入れてくれるなら歓迎しましょう。


 彼女は小さくため息をつく。


「ダメだ!」

「何を言うんですかセリシオさん!」


 私はギョッとした。


 クレアとアトスが凄い剣幕で反対をしたからです。


 何ですかこの二人は、なぜ止めるのですか?


 自分達も散々コケにされていたではありませんか。


 やはり、レオダスのようにステラと二人の時に言うべきだったでしょうかね?


「勇者様。この女は無礼にもあなたに逆らったのですよ?」


 仕方なく、私はアトスをあやす。


 ですが、このガキは私の言うことを聞こうとはしない。


「彼女は僕らを思って言ってくれた」


「そうです。ステラさんは私達に気付かせてくれました」


「馬鹿馬鹿しい。私をあれだけ侮辱したのですよ?」


 何故侮辱されたのに庇うのでしょう。


 理解できませんね。


 ステラはスッと席を立ちます。


「耳あたりの良い言葉だけを聞き、触りが悪ければ追い出す。それがあんたのやり方ってわけ?」


「違います。あなたの私に対する評価は全くの的外れ。侮辱に他ならないのです」


「そですか。じゃあ私はこれで失礼します」


 あまり気分がよくありませんね。


 レオダスは追放を言い渡した時、屈辱に顔を歪ませていたものですが、この女は特段何かを感じているように見えない。


 勇者パーティーを抜けることに未練がないのでしょうか?


「ステラ、行かないで」


「や、勇者様。これで反省して再スタートをするつもりなら付いていってもよかったんですけど、これは駄目です。あたし、後ろから撃たれたくないんで」


 下らない負け惜しみですね。


 さっさと失せなさい。


「じゃあ、あたしが稼いだ分のお金と荷物持って行きますね」


「待ちなさい。それは無用です」


「は?」


 フッ、物分かりの悪い。


「それはパーティーの共同財産です。置いて行きなさい」


「・・・馬鹿なんすか? ならあたしのものでもあるじゃないですか」


「聞き分けのない。そんなことが許されると」


「あたしが稼いだ分を持って行くって言ってんだよ、このモノクルクソ馬鹿!」


「な、なんだとお!!」


 今、この女はなんと言った!


 許せん。

 断じて許すわけにはいかない!


 私は呪文を唱える。


 このふざけた小娘に一生消えない傷を刻んでやろう。


「お、おい、流石に」


 アルトスが私を止めようとする。


 退きなさい。


 私が横にズレてステラ目掛けて手をかざした時、


 パン!


「・・・・・・・・・あ?」


 頬を叩かれた。


 クレアに叩かれた。


 この中で一番暴力などとは無縁と思われたあのクレアに。


「いい加減にして下さい」


 アルトスも、余りに現実離れしていたその光景を見て、ポカンと口を開けていた。


 私とて同じ。


 これは現実なのでしょうか?


「よかったね。クレアさんがビンタしなかったらあたしがしてたし。もっとキツイやつを」


「なっ、いい気になるなよ!」


 私は激昂した。


 魔法がダメならと、拳を振り上げたその時、ステラが消えた。


「え?」


 次の瞬間、ステラの拳が私の顎の前でピタリと止まる。


「っう!?」


 ば、馬鹿な。


 いつの間にこの私の間合いに!?


「あたしの俊敏性は300に迫るよ。この距離で賢者のあんたが勝負になる筈ないだろ?」


 くっ、そういえば戦闘でこの女がまともに被弾したのはたった一度しか・・・。


 ステラはスッと拳を下げた。


 私は力が抜ける。


 こ、この天才がこんな馬鹿な女に。


 いえ、違いますね。

 クレアの平手に動揺しているからですっ。


「ステラさん。こんなことになってしまって本当に申し訳ありません。もう引き取められません。どうか、お元気で」


 クレアはステラに向かって深々と頭を下げました。


 私はまだ放心から目覚められません。


 それをいいことに、ステラはさっさと支度を整えて部屋のドアに手をかけます。


「さようならクレアさん。あと勇者様も。短い間でしたけど、あなた達とは冒険出来て楽しかったですよ」


「お、おい、ちょっと待てよ」


 アルトスが放心から覚めてステラに手を伸ばしましたが、彼女はさっさと出て行きました。

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