第22話レオダス対クレイ

「な、何ぃーー!!」


 俺がそう忠告すると、クレイは目を見開いて奥歯を噛んだ。


「咄嗟のことに対応できていない。もっと肩の力を抜け」


「この俺に指導でもするつもりか!? 貴様何様だーーー!!」


 おっと。

 今までアトスの稽古をしていたからな。


 つい同じように口を出してしまった。


 それが相当気に入らなかったようで、目を血ばらせて鼻息も荒い。


 チラリとアールベルトに視線を移すと渋い顔をしている。


 あれも苦労するな。


 冷静になるどころか、益々いきり立つクレイが俺に向かって突撃してくる。


 俺は逆に冷静さを保ち、振り下ろす剣を横からカウンター。

 力差がなければそのまま振り下ろされるため、そうそう出来ない芸当ではあるが、俺ならば問題ない。


 再びクレイの身体が泳ぐ。


 俺はクレイの剣に自分の剣を押し当て、体重をかけて押し飛ばした。


 クレイは踏鞴たたらを踏むも、転ぶことなく持ち直す。


「ぜぇぜぇ」


 肩で息をするクレイ。


 ペース配分もなくぶつかってくれば息も上がるだろう。


 俺はチラっとアールベルトを見た。


 実力を確認するならば十分ではないのかと目で合図したのだ。


 だが、これにアールベルトは首を横に振った。


 このままではクレイは不完全燃焼。

 煮え切らず勝負が終わってしまう。

 やるからには叩きのめしてほしい。


 彼の目はそう言っていた。


 そうは言ってもね、俺の蹴りは強化されているスケルトンキングを一撃で粉砕する。


 人間に同じことをすれば間違いなく死ぬ。


 こっちとしてもまだこの出鱈目な身体に慣れていないっていうのに、手加減するのも一苦労だ。


 クレイは目が充血し、尋常ならざる雰囲気だ。


 自分が認める兄であるアールベルトに負けるのは良くても、そうではなく、気に入らない俺にここまでいいようにやられるのは我慢ならないらしい。


「殺す」


 おいおい、これは試合じゃないのか?


 実力を確かめるっていう主旨を完全に忘れているぞ。


「こぉぉぉ~」


 独特の呼吸を行うと、これまでとは雰囲気を変え、剣を上段に構える。


 次の一撃。


 これまでとは比べ物にならない一撃が来る。


 アールベルトは焦った様子で手を上げようとした。


 恐らく彼らの家に伝わる奥義なのだろう。


 だが、それよりも早く、クレイは踏み込んできた。


「きえええええええええええ!!!!」


 強い踏み込みのままに振り下ろされた斬撃。


 凄まじい威力であると即座に理解する。


 マズイ。


 これを受けたら剣が持たない。


 瞬時に判断し、俺はクレイが剣を握り締めた手目掛けて蹴り上げた!


「があああああああぁぁぁ!!」


 嫌な音と共に剣があらぬ方向へ飛んでいき、クレイは手を押さえてゴロゴロと転がった。


 俺としてはかなり手加減したつもりだが、あっちの両手を完全に粉砕した。


 外科的な治療だけでは完治は不可能だろう。


 身体は震え、口からは涎が出ている。


「そ、そこまでだ!」


 それだけ口にして、アールベルトはクレイに駆け寄った。


 他にも、観ていた騎士達はわらわらとクレイの周りに集まる。


「・・・ダメだな。担架を持ってこい」


 手首だけじゃなく、肘の当たりまでやっちゃったかもしれないな。


 持ってきた担架で、クレイは運ばれていった。


 結局魔法の出る幕はなかったな。


 アールベルトは手を後ろに回しながら俺の元に来ると小さくため息をついた。


「・・・やり過ぎじゃないか?」


「だったら止めてくれよ。あれを食らっていたら俺がああなっていたぞ」


「もう少し上手くやってくれると」


「そりゃ無理難題だ。俺は自分のことで精いっぱいだよ」


 勝手を言ってくれる。


 アールベルトも俺に言ってもどうしようもないと理解しているのだろう。


 頭をぼりぼりとかいてため息をする。


「まあ、俺が一番悪いんだがな」


「才能あるよあいつ。ここでいい具合に折れてまた真っすぐに伸びてほしいな」


「すまん。恩に着る」


 アールベルトには礼を言われたが、クレイは俺を相当恨むだろうな。


 手は回復魔法で治るだろうが、心までは治らない。


 これから腐るか、新しく始められるかはあいつ次第だ。


「レオダスー!」


 アティの声がしたかと思うと、俺の腕に飛びついてきた。


「おわっ」


「凄いよ。やっぱりレオダスは強いよ!」


「あ、ああ。ありがとうアティ。悪いちょっと離れてくれるか?」


 ギャラリーを気にして周りを見回すと、喝采を上げている者もいれば、どこか面白くなさそうな顔をしている者もいる。


 そんな中、王様がパンパンと拍手をしながら、俺の元へとやって来た。


「流石だレオダス。以前にも増して強くなったな」


「ありがとうございます」


「しかし、公衆の面前でアティといちゃつくのはどうなんだ。ん?」


「あ、いやこれは?」


 ひぃ。

 コワイ、この人コワイよ。


 アティを引き剥がそうとしたのだが、ひっついて中々離れてくれない。


 そんな様子を見ていた王様はため息をつく。


「まあこれで不満がある者も文句を言いづらくなった。結果としては良しとしよう」


「負ける可能性もありましたよ?」


「その心配はしていないな。お前なら勝てると確信していたよ」


「・・・どうしてそこまで?」


 本当になんでなんだろう?


 まあ、この勝負の結果はいいとして、王女の娘を預けるなんて普通出来ないぞ。


 王様は悠然とした態度で薄く笑う。


「今日、謁見の間でお前と話して確信した。心身共に、お前は素晴らしい成長を遂げているとな。俺は人を見るのが仕事みたいなもんだ。どんな人間かは見れば判るのさ」


「俺は王様のお眼鏡に適いましたか?」


「ああ合格だ。だがな、アティはまだやらんぞ?」


「は、はは」


 だったら預けんなよ。

 何かあったどうすんだ?


「レオダス。これからよろしくね!」


「あ、ああ。よろしく頼むよアティ」


 王都に帰省して二日目でえらい目にあった。


 遠回りしたが、これでやっと冒険者ギルドに行けるな。

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