第21話レオダス対クレイ

 騎士団の演習場で、俺達二人は戦うこととなった。


 それを聞きつけて、周りにはギャラリーが集まってきている。


 騎士は勿論のこと、文官や給仕の人までが、俺の戦いっぷりを見ようとしていた。


 好奇の視線もあれば、派手に負けてしまえと思っている連中もいるのだろう。


 王の命令がある以上、アティとの冒険は決定事項であり、俺にはどうしようもない。


 本音を言えば勘弁してくれと言いたい。


 だが、それで俺を嫌悪したり中傷されるのは我慢ならない。


 何故なら俺は一切悪いことはしていないからだ。


「子供っぽいかな・・・」


 ぽつりと呟く。


 悪くはないのだから、周りから何と言われようと気にせずにいればいい。


 俺にはそれが出来なかった。


 やはり精神的に未熟なのだ。


 アールベルトが俺に模擬剣を渡す。


 刃こそついていないが、重量はある。


 頭を思い切り叩いたら下手をすると死んでしまうな。


 ただでさえ、実質俺のレベルは70なのだ。


 殴っただけであの男は死んでしまうだろう。


 いくらなんでも殺しは不味い。


 軽くあしらって、俺の力を誇示できればそれでいい。


「俺からこう言っちゃあ何だが、痛い目を合わせてやってくれ」


 アールベルトが剣を渡しながらそんなことを言う。


「おいおい、いいのか? あれはあんたの弟だろう?」


 応援する相手が違うんじゃないかと思ったが、アールベルトは視線をわずかに下げた。


「腕がいいせいか。あいつは最近増長している節がある。俺の弟という点もマイナスに働いているようだ。ここは一つ、きつくしごいてやってほしい」


「そういうことか」


「但し、お前も気を抜かないでくれ。増長するだけあってあいつの実力は本物だ。スキルに“剣術”もある。レベルは17だが、こと剣での戦いでは4,5上のレベルと思った方がいい」


「へえ、“剣術”のスキルか」


 剣術のスキルはその言葉通り、剣の技量を上げるスキル。


 いうならば、このスキルがあるだけで剣の天才となれるんだ。


 アルトスにはなかったスキルだな。

 代わりと言ってはなんだが、あいつには“耐久”という、タフネスをアップさせるスキルがあったが。


「俺、魔法使っちゃ駄目か?」


 この質問にアールベルトは首を横に振った。


「これは剣での試合ではなく、お前の実力を図る為の戦いだ。姫を任せるに足るというな。まさか実戦で魔法を使わないなんて選択はないのだから、なんでもありだ」


 アールベルトはそう言って笑い「殺しは不味いがな」と、付け加えた。


 当然解っている。


 そんなことになれば禍根が残るどころの騒ぎではない。


 完全に悪役となって俺は城を出なければならなくなる。


 俺が頷いて、さあ始めようとした時だ。


 いきなりギャラリーが膝をついてた。


 何事かと思えば、王様の登場だ。


「ええっ」


 俺も慌てて膝をつく。


 すると王様は軽く手を上げると「よい」と言って、立つように促した。


 アールベルトは王様の近くまでやって行き、苦笑いをする。


「まさか、陛下まで見学ですかな?」


 この質問に対し、王様は子供の様にウキウキしながら頷いた。


「うむ。俺としたことが、今のレオダスの実力も知らずに娘を任せようとしてしまった。まあ問題はないだろうが、あいつの実力を再確認し、皆に認めさせるチャンスだ。俺のことはいいから始めよ」


「ははっ!」


 アールベルトは一礼をすると、俺とクレイの中間に位置どった。


「さて、陛下も見学にいらした。これで益々下手な戦いは出来なくなったな?」


「ええ! この馬の骨に目にものを見せてやりますよ」


 あっちはそう言って息巻いていた。


 俺よりも3,4は年下だろう。


 それでレベル17とは。


 今後楽しみな期待のエースといったところか。


 アールベルトとしては、この辺りで俺に伸びた鼻を折ってほしいところだろう。


 もしかしたら、一番クレイと俺を戦わせたいのはこの人なのかもしれない。


 俺がアールベルトの内心に気が付いたと、あっちも気づいたらしい。

 ニヤリと笑われた。


 この野郎。


 後で金取るぞ。


「さて、そろそろギャラリーも待ちくたびれた頃だろう。始めて構わないか?」


「ええ!」

「こっちもいいぞ」


 俺とクレイはほぼ同時に頷いた。


「では、始め!」


「おおおおおおおお!!」


 始まった途端、クレイは様子見も何もせず突進してきた。

 まるで闘牛だ。


「ぜあ!」


 上段からの振り下ろし。

 十分に鋭い。

 流石は“剣術”持ちだ。


 俺はそれを受け止める。


 ふむ。

 キャリアオーバーがなければ腕が痺れるところだ。


 ギシギシと激しい鍔迫り合いをし、一度剣を弾き、再度ぶつかり合う。


 それを何度か繰り返し、この男の技量を確かめる。


「少しはやるな!!」


 クレイはそう言って、ぐっと体重をかけて来た。

 対して俺は力を抜き、半身になってクレイを受け流す。


「むっ」


 クレイはすぐに対応できずに身体が泳いだ。


 俺は敢えて剣を斬り付け、クレイごと弾いた。


「ぬぉ!?」


「おおおお!」


 周りから歓声が上がる。


 この数合だけでも十分に見応えがあるだろう。


 クレイは体制を立て直し、俺に向き合った。


 いい線いっている。


 だが、


「判断が遅い」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る