第20話納得させてやる

「納得が出来ません!!」


 アティシア王女、いや、アティと冒険することになって、暗澹あんたんたる気持ちで俺は王宮を歩いていた。


 視線が痛い。


 好奇な視線。


 嫌悪の視線。


 それらを受け止めて歩いていたところに、先程の声の主と、俺も知っている顔の人物がちょっとした口論をしていた。


「なんでアティシア王女殿下が冒険者などをしなければならないのですか? 考えられないでしょう!?」


 そうだそうだ。

 言ってやれ言ってやれ。


 どこの誰かも知らない男に俺はエールを送った。


 茶色の髪を短くかり上げた男だった。

 騎士の鎧を着ているから、当然騎士なんだろう。

 若いな。20前後といったところか?

 身体は170辺りかな。


 もう一人は騎士団長で、長身は、180センチを超えているだろう。

 髪は白髪が混じっているが、鍛え抜かれた筋肉は未だ現役だと語っていた。


 彼は、なだめる感じでその男に言い聞かせている。


「仕方がないだろう。これは王の決定だ」


 その通り。


 これは王の決定であり絶対。


 ぶっちゃけて言えば俺自身がこの決定に異議申し立てをしたいところだが、相手が国のトップともなればそれも出来ない。


「ですが、どこの馬の骨とも知らない奴に」


「どこの馬でも骨でもないわ!」


 そのまま通り過ぎてしまおうと思ったのだが、アティが二人の会話に割って入った。


 おいおい、ここで君が加わると要らぬトラブルになるじゃないか。


「アティシア殿下っ」


「確かクレイだったわよね、アールベルトの弟の」


「はっ! 覚えていただき光栄であります」


 ほぉ。

 アールベルトっていうのは騎士団長のことだ。

 彼はその弟か。

 言われてみると、どことなく似ている気がする。

 髪とか。


「ちょっと聞こえちゃったんだけど、レオダスは元勇者パーティーよ。実力は確かだわ」


「で、ですが、その男は勇者パーティーから追放されたというじゃありませんか?」


「・・・どこでそんな」


 アティは驚いてそう言った。


 アティも俺がパーティーを追放されたことを言いふらしたりはしていないのだろう。


 だが、どこからかその噂が上っている。


 これは暗黙で公になっていると考えた方がよさそうだ。


 男、クレイはアティが黙ったのを良いことに、調子に乗った感じで口を動かす。


「そんな男にですよ? 付いて行くなど危険極まりない。殿下、どうかお考え直し下さい。その男は危険です」


 おい、ちょっと待て。

 なんで付いて行くのが危険てところから、俺自身が危険になってるんだ?


 俺だって口には出せないけど現状にほとほと困ってるんだ。

 そこまで言われる筋合いはないぞ。


 アティはすっと目を細めた。


 あ、これは相当怒っているな?


「これはお父様の決定。あなたはお父様に異議申し立てをしたいと言うわけね?」


「い、いえ。お、俺は・・・」


 クレイはぎょっとして押し黙った。


 流石に王の名前が出されては黙るしかないだろう。


 だが、やっぱり納得は出来ない筈だ。

 さっきからアティと話しながらも俺をチラチラと険しい視線を送っている。


「俺は、お前を認めていない。いや、この王宮にいる多くの人間が納得をしていないからな」


「禍根は残したくないな。俺がお前よりも強ければ納得するか?」


「何ぃ」


 俺の発言を挑発と受け取ったか、クレイは眉間にしわを寄せる。


 アールベルトは困った顔で苦笑した。


「おいおい、レオダス・・・」


「騎士団長。俺もこのまま針の筵むしろで王宮を出て行きたくないんですよ。少なくとも、俺に王女の傍にいるだけの力量があると周りに納得してもらいたいんです」


「仕方がないな」


 ぼりぼりと頭をかきつつ、アールベルトはクレイと俺を見る。


「じゃあちょっと模擬戦をやってみるか。レオダスの実力は俺も知っているが、どれ程実力を伸ばしているか知らないからな。実は見てみたいと思っていたんだ」


 あんたもか!


「いいでしょう兄上! この男の底がどの程度かを俺が証明しますよ」


「言っておくが、これだけ言われて黙っている性分じゃないからな。そっちこそ覚悟しとけ」


 俺達が視線をバチバチさせている横で、アティは「やれー、やれー」と楽しんでいた。


 ・・・原因は君だからな。

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