第19話新たな仲間アティ

 はっ!


 思わず普通に答えてしまった。


 え?

 反射的に言っちゃったけど、この人今、王女を冒険に連れて行けって言ったよな?


 ブァっと嫌な汗が噴き出した。


 冗談、だろ?


「そう言うな。是非とも同行したいと言っているんだ」


「いやいやいや、そんな、冒険者ですよ? モンスターと戦ったりするんですよ!?」


「そうだろうな」


「だ、だろうなって。お解りですよね? とっても危険なんです。もしかしたら命を失うかも」


「お前が付いているだろう?」


「あ、いや、それでもですね・・・」


「何、安心しろ。アティには幼少期より、騎士団長と宮廷魔導士から厳しい教えを受けている。並みの冒険者よりもよっぽど強いんだ」


 続けて「勿論、俺も強いぞ?」と言っているが、そんな情報は要らない。


「それでもです。聞いていませんか? 俺は勇者パーティーから不要と言われ、追放されたんですよ。そんな俺が傍にいたって・・・」


 言葉尻がどんどんと萎んでいき、俺は口を結んだ。


 これまではおちゃらけていたとも思える態度でいた王様が、眉を落し、複雑な顔をした。


「聞いている。お前の“早熟”に目をかけたのは俺だ。これまで勇者パーティーを引っ張ってくれたと感謝する」


 俺の胸の中で、何かが弾けた。


 新しいスキル、キャリアオーバーに目覚め、これまでと違った生き方をしようと決意した。


 自由な冒険者になろうと胸をときめかせもした。


 だけど、忘れることは出来ない。


 追放されたあの痛みは、しこりとなって俺の心に残るだろう。


 だけど、感謝すると言ってくれる人がいた。


 俺のこれまでの行いを、認めてくれる人がいた。


 そこに王様だとかそんなことは関係ない。


 嬉しかった。


 嬉しかったんだ。


「身に余る、お言葉です」


「頭を上げろ。王が民を思わずにどうするというんだ?」


「は、はい」


「・・・しかし、賢者セリシオか。決して悪ではないのだが、貴族として名を上げたいという思いが強すぎるな」


 王様は難しい顔をして、眉間をトントンと指で押した。


「ええ、悪い奴じゃないと、思います。ただ、このところ増長しているとは思いますが・・・」


 王様は厳しい顔を作り、コクリと頷いた。


「留意しておこう。さて、レオダス。俺はお前の評価を下げてはいないぞ。まあいきなりドラゴンの討伐に向かうと言ったら驚くが、並みのモンスターではお前は引けを取るまい?」


「数の問題もありますが、危険を嗅ぎ分ける嗅覚は備えています」


 再び王様は頷いた。


 俺も自負があるからああ言ったけど、不味かったか?


 ほら、嫌な顔で笑ってるぞ。


「ならば心配ないな。娘をよろしく頼むぞ」


 顔が引きつるのが分かる。


 この人本気か?


 本気で俺にお姫様を預けるつもりなのか?


「ただ、」


 お、今までで一番の凄みのある顔。


 難易度の低いクエストを受けろってところか?


「お前の腕は信用しているが、男としての部分はどうかな? もし娘に不埒な真似をすればその時は」


「しませんしません!!」


 本当にするつもりなどないし、もしすれば、

 死ぬ。

 俺は死ぬ。


「レオダス!」


 その時、アティシア王女が俺にタックルに近い勢いでぶつかって来た。


「やったやった! これからよろしくね♪」


「お、王女」


 承諾なんてしていないぞ!


「これからはパーティーを組む仲間だし、王女とか止めてね。気軽にアティって呼んで」


 マジかー。


 これって結局は護衛みたいなものじゃないか。


「お父様はああ言ってるけど、ずっと見てるわけじゃないんだし、もし、手、手を出しちゃっても問題ない、よ?」


 アティは、顔を赤くしながら耳元でそう囁いた。


 ・・・勘弁してくれ。

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