第18話王様からの呼び出し
「んんーー! いい朝だあ」
俺はグイッと身体を伸ばして、汚れたベッドから起き上がった。
昨日は最低限の掃除をして寝てしまったが、当然行き届いていない箇所は多々ある。
時間をみて、少しづつ片付けていこうと考え、身支度を整えて、昨日買っておいたパンを頬張る。
味気ない味のパンを水で流し込み、簡単すぎる朝食を済ませた。
「クレアがいたら、なんて言うかな・・・」
思い出す。
常日頃から俺の食事の大雑把さを見かねて、何かと世話を焼いてくれた優しい聖女を。
信頼関係を築けていると思っていたが、彼女も俺が足手まといだと感じていたのか。
いや、親しいからこそ言えなかったのか。
苦い思いが胸を支配していく感覚に襲われて、パンと、頬を叩いた。
「何時迄も引きずるな!」
自分自身を叱咤し、俺は冒険者ギルドに向かうべくスケルトンソードを持った。
「・・・これ、鞘がないんだよな。武器屋に先に行っておくか」
抜き身の状態で拾ったからどうしようもない。
となると、武器屋に行って、これの鞘だけを作ってもらわないといけないのか。
オーダーメイドで。
もう新しいのを買った方がいいかもしれない。
幸いにも、クロスのおかげで金は手に入った。
高価な武器でなければ手に入りそうだ。
このスケルトンソードは何かあった時の予備として置いておき、新しく武器を買いに行こう。
そう思って外に出た時だ。
騎士の姿をした男性が俺の元に駆け寄って来た。
「レオダス殿で間違いないだろうか?」
「そうだけど、騎士が俺に何の用だ?」
「国王陛下がお呼びだ。王宮に参られよ」
え?
*********
どうしてこうなったーー!!
現状をありのまま話すぜ。
俺は今、謁見の間にて、王様を前にして膝をついている。
な、何を言っているんだと思うだろうがマジだ。
って、誰に言ってるんだ俺。
一体なんで俺は呼ばれたんだろうか?
心当たりとしては、当然昨日会ったアティシア王女の件だろうな。
たらりを、汗が頬を伝う。
ま、まさかぁ!
俺が誘拐したと疑われたままなのか?
昨日は王女がすぐに誤解を解いてくれたが、やっぱり問題になったのか?
あるいは、俺が王女を拐かそうとしていたと思われているとか?
ま、不味いぃーー!
く、首か?
首が飛ぶのか?
ど、ど、ど、どうする俺!
今の俺なら逃げられる。
このままダッシュで逃げるか?
だけど、その後どうする?
一生お尋ね者として生きるのか?
い、嫌だー!
せっかく新しい人生が始まったと思ったのに、こんな転落は嫌だー!!
「レオダスよ、頭を上げよ」
「は、ははぁ」
俺はゆっくりと頭を上げた。
国王はまだ青年と言っていい歳の男性だ。
美しい金の髪(アティシア王女の青い髪は王妃様似だな)と締まった表情。
若いながらに王としてのオーラを感じる。
「久しぶりだな、レオダス」
「ははあ、陛下も御壮健で何よりで御座います」
「そう畏ることはない。俺とお前の仲だ」
「は、はい」
王様とも、昔はよく話したしな。
あっちも大分ラフな感じだ。
「昨日はアティを送ってくれて助かった。どうも、可愛がりすぎて奔放に育ってしまってな」
「い、いえそんな」
おや?
怒ってるんじゃないっぽいぞ?
じゃあ、何で呼ばれたんだ?
そうか!
俺はピンと来た。
お礼だ!
そうか、娘を送ってくれてありがとうってことで褒美をくれるんだ。
ワハハ。
ツイてる。
勇者パーティーを追放された時はそりゃあ凹んだもんだが、キャリアオーバーのスキルにクロスとの出会い、今回は褒美まで貰えるなんて、まだまだ俺もこれからだな!
「それでだレオダス」
「は、はい!」
一体何をくれるんでしょうか?
「アティシアの護衛を断ったそうだな」
「あー」
王様の目が、ギラリと光った、気がした。
や、やっべぇーー!!
ダメじゃん。
やっぱダメじゃん!
『娘の誘い、なんで断ってんだよ、あ~ん?』って感じじゃないのかよこれ。
どっどっどっ、どうなるんだこれ!?
不敬罪か?
首か?
飛んじゃうのか?
真面目に逃亡を視野に入れた。
やっぱり調子になんか乗るもんじゃない。
人生そう上手くいく筈がないのだ。
「なんでも、冒険者になりたいそうだな?」
「は、はい。俺のような無作法な男は、王女の護衛なんて分不相応な役職ではなく、気ままな冒険者の方が性に合うと思いまして」
正直に言っちゃったけど、どうなんのこれー!
王様は顎に手をやって「ふむ」と唸った。
ゴクリと唾を飲み込む。
俺の言葉の選択肢、合ってんのかな?
それとも、取り返しがつかないところまで、来ちゃっているのか?
「だが、あれもお前に懐いていてな。勇者パーティーとして冒険に出て行った時も、随分心配していたのだぞ?」
「そ、そうだったんですか」
知らなかった。
王女はそこまで俺のことを気にしてくれていたのか。
そんな王女の誘いを俺は断ってしまった。
・・・父親としては恨むだろうな。
「だが、お前が冒険者としての道を行くのであれば、それを止める権利はアティにはない。俺が命じればお前も応じる他ないのだろうが、そんなことはしないから安心してくれ」
「あ、ありがとうございます」
恨んでもいない?
じゃあ、なんで俺は呼ばれたんだろう?
褒美ではなさそうだし、一体何故?
「あの、陛下。今日はどういった理由で俺を?」
もう考えるのが面倒だ。
ここはストレートに聞いてしまおう。
すると王様は、ニヤリと笑った。
な、なんだその笑いは。
どういう意味だ?
「お前が冒険者になる。それはお前の決めたことだ。どうこう言わん。それでな」
「は、はい」
なんだろう。
この人、飛んでもないことを言いそうな気がする。
「アティもお前に付いて行きたいと言うんだが、構わないな?」
「構います」
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