第17話賢者サイド ステラ呆れる
私率いる勇者パーティーは、この前から苦戦を強いられているダンジョンへとやって来た。
それなりに大きな造りをしているが、大人数で乱戦になると、中々面倒なことになりますね。
その辺りは、うまい具合に前衛に頑張ってほしいものです。
しばらくは何事もなく進むことが出来ました。
ですが、これまで何度も苦い思いをした辺りに来ると、ずっと苦しめられてきた恨らしいモンスターに遭遇してしまったのです。
「あー、リザードマンですね。そこそこ頭がいい上に、素早くて中々やっかいな相手ですよ」
ステラがそう言って構えを取った。
さて、この女がどれだけ出来るのか?
この戦いであなたの力量を見極めさせてもらいますよ?
「おっしゃあー。新入り、俺に続けえーーー!!」
また暑苦しい声を上げて、アルトスが剣を抜いて突っ込んだ。
相変わらずに脳筋馬鹿ですね。
まあ、この猿にはそれしか出来ないのですからいいのですが。
「あ、ちょ、ちょっと!」
ステラは驚いて、それに続きます。
アルトスは思い切り剣を振りかぶり、リザードマンとぶつかりました。
これまでもアルトスは二体程のリザードマンを押さえていましたね。
ですが、それでは数体群れで行動するこのリザードマンには通用しなかったのです。
そして、今回もリザードマンは五匹。
私は危険が自分に及ばないよう、これまで同様後ろに下がりました。
やはりというべきでしょう。
リザードマンはアルトスの横を抜けて、こちらに迫ってきました。
「おりゃ!」
ここでようやくステラが動きました。
鋭い震脚からの当て身で、リザードマンを吹き飛ばします。
ほぉ。
口先だけの女ではないようですね。
アトスは聖剣に力を送り、いつでも斬撃が飛ばせるように準備をしています。
クレアはアルトスとアトスの中間辺りに陣取り、いつ誰が怪我をしてもすぐに回復ができるように待機中。
私は小さくほくそ笑む。
ほぉら、思った通り。
レオダスなど不要なのですよ。
数が一人増えただけで、以前の構成に戻れたのです。
クレア、これが現実ですよ。
あなたはレオダスに対して低級な幻想を抱いていたようですが、頭数を一人増やすだけで、この問題は簡単に解決出来るほどに、取るに足らないものだったのです。
「さあ、そのままモンスターをそこに留めておきなさい。私の魔法をお見舞いしますよ」
私は勝利を前に、愉悦で心を満たした。
「さあ、決めますよ!!」
ここは私得意の火炎魔法で、あのトカゲ共を焼き尽くしてあげましょう!
私は内なる魔力を手に集め、巨大な火球を生み出す。
ステラがそれを見てギョッとした。
ふはは、私の力を目の当たりにして声も出ませんか?
「ち、ちょ! ちょっと待って!」
「さあ退きなさい! 丸焼けになりますよ?」
「ぎゃー!」
ステラは横っ飛びで私の火球を躱す。
危ないですね。
もっと上手く躱しなさい。
アルトスが近くにいたクレアを抱きながら急いで下がる。
何をしているのです!
その女は私のもの。
下らない劣情に負けて、クレアの肌に触れるなど、許しませんよ!
火球はドンと、衝撃を与えながらリザードマンを焼いた。
一瞬でした。
ほんの僅かな時間で我々、いや、私は手こずっていたモンスターをアッサリと倒したのです。
アルトスが此方に顔を赤くしてやって来る。
私は嫌な予感がして魔力でシールドをはりました。
「て、てめえはまたぁーー!」
やはり、今度は初めから拳を振り上げています。
ガツンとアルトスの拳が私の結界に当たり、弾かれました。
これがまた気に食わなかったようで、アルトスはますます顔を赤くします。
ふふ、本当に猿そのものですね。
「アルトスさんダメです!」
「クレアいいのか!? コイツはお前も巻き込もうとしたんだぞ!?」
「大丈夫です。ギリギリ当たらない位置にいましたから」
「その通り。クレアには・・当たらないように撃ちましたよ。当然でしょう?」
再び馬鹿猿は結界に向かって殴りつけます。
ほらほら、手が赤くなっていますよ?
それにすら気がつきませんか?
「それだって爆風食らったら怪我するだろうが!」
「成されるべき正義は果たされました。それが全てですよ」
「こ、この野郎」
ふと気がつけば、ステラがポカンとしてこちらを見ていました。
「なんなのこの人達・・・」
そんな不可解なことを呟いて。
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