第11話賢者サイド なんでこんなことにー

 一体どうなっているのですか?


「く、やべえ抜かれる! おいセリシオ。魔法はまだか!?」


「何をやっているのです。もう少し押さえなさい」


 たかが数体の魔物で弱音を吐くな。

 それでも戦士なのですか!?


「アルストさん。大丈夫ですか? ヒール!!」


「お、おお。良い感じで効いてきた。もっと頼む」


「は、はい」


 アルストの背後に回り、クレアがヒールをかけ続ける。


 何をやっているのですか?


 あなたは私の傍にいなさい。


 私が怪我をしたらどうするつもりなのですか?


「クレア、危ない!」


「はっ!?」


 アトスが叫ぶ。


 回復に集中しているクレアに向かって、モンスターが突撃したのだ。


 く、だから言わないことではないのです。

 ※言っていない。


 アトスが斬りかかり、なんとか仕留めたものの、未だにモンスターは数体残っている。


「アルトス。一体消えたのだからしっかりと押さえなさい!!」


「馬鹿言ってんじゃねー。馬鹿賢者!! てめえこそいつまでのそのそ呪文唱えてんだ!? さっさと撃てぇ!」


「なっ!?」


 こ、この猿がぁ!

 馬鹿猿の分際で、この私を馬鹿だと!?


 こんなクズは死んでしまって問題ない。


 この際ゆっくりと呪文を唱え、あいつが死んでから、


「やべぇ。また抜かれる!」


「っく。消えなさい!」


 あそこで抜かれたら、私に害が及ぶじゃないですか。


 私は急いでファイアボールを唱える。


 近くに三人いるが、知ったことではない。


 これ以上近づかれたら私が危険だ。


 ドォン、と着弾し、モンスターはまとめて消し飛んだ。


 フッ、私にかかれば造作もない。


 爆風で吹き飛ばされた三人が、ゆっくりと起き上がり、私の元へやって来る。


「礼なら結構ですよ。ですが、あまり私を困らせないで」

「ふざけんなーーーーーー!!!!」


 アルトスは私の胸元を掴むとグイっと浮き上がる程に持ち上げた。


「なっ!?」


 突然のことで驚愕する。


「何をする!?」


「『何をする』? そりゃこっちのセリフだ。何を考えてるんだ。もう少しで俺ら三人は黒焦げだ!」


「このままではわた、パーティーの危機だったのですよ。少しくらい我慢するべきでしょう」


「てめぇ!」


 アルトスは拳を握り締める。


 まさか、殴るつもりですか?

 大賢者であるこの私を!?


「ア、アルトスさん。落ち着いてください」


「ぐ、だがクレア。こいつはお前も・・・」


「このとおり無事ですから。さあ、回復の続きをします。彼から手を放してあげてください」


「あ、ああ」


 そう言って、アルトスは私からぶっきらぼうに手を離した。


 首が苦しくなり、大きくむせる。


 こいつ、ここで殺してやろうか?


 私はそれを本気で検討した。


 いや、今は不味い。


 モンスターが徘徊しているこのダンジョンで、そんなことをすれば、的が一人減ることになる。


 私はいつものように冷静にそう分析し、アルトスの処刑を思い留まった。


 ですが、このことは忘れません。

 いつか必ずお前を殺す。


「勇者様も怪我を。回復しますね」


「・・・うん。でもクレアが先に」


 アトスはそう言うが、クレアは首を横に振った。


「私は大丈夫です。爆風で吹き飛んだ時に出来た浅い傷ですよ」


 クレアはニコリと笑った。


 そう。

 これが本来あるべき姿です。


 たかが爆風じゃありませんか。


 かすり傷程度でパーティーの、私の危機が去ったのです。


 感謝こそされ、アルトスのように怒鳴りつけるなど笑止千万。


 クレアはアトスを回復した後、自分も回復し、やっと一息ついた。


 どうもこのダンジョンに入ってから上手くいかない。


 何故?


 無能なレオダスを追放したというのに、一体何故?


「・・・やっぱりレオダスがいないから」


 クレアがそんなことを言った。


 何を馬鹿な。


「そんな筈がありません。現に、この間は彼がいなくとも上手くいったじゃありませんか」


 私が反駁はんばくすると、クレアが眉を下げる。


「『レオダスに休暇を上げたい』と、貴方が言った時のことですか? あれは、攻撃力こそ高いものの、正面から真っすぐに襲ってくるタイプのモンスターが多かったからです。今の様に素早くて、アルトスさんの間を縫ってくるモンスターがいたら、一人ではフォロー出来ません」


「そんなことはありません。勇者様。もう少し上手く立ち回ることは出来ませんか? あなたも前衛なのですよ?」


「・・・そう、だね」


 私が非難すると、アトスは肩を落とす。

 すると、クレアがすぐに彼を擁護した。


「勇者様は悪くありません。これまでもそうやって立ち回って来たんです。すぐに変えろというのが無理なんです」


 くっ。

 クレア、そうやってアトスの機嫌を取ろうという算段ですか?

 ちょこざいな。


 やはりこの女、調教が必要なようですね。


「撤退しよう」


「は、はあぁ!?」


 アトスがそんなことを言いだした。


 私はまたも大声を上げてしまい、口元を抑える。

 このガキはまた何をのたまうのだ。

 ここでの撤退などあり得ない。


「勇者様。よく熟慮なさい。ダンジョンに入って大して時間が経っていないんですよ?」


 アトスは目を瞑り首を横に振る。


「だからこそだよ。入口付近だというのにこんな有り様だ。これ以上進んだら後戻りすら出来ないよ」


「そ、それは」


「リーダーの決定だよ。従って」


 くそぉー!

 くそーーーーー!!


 何がリーダーだ。

 お飾りの分際で!


「セリシオ」


「なんですか?」


「次は気をつけて」


 は?


 この私が何に気をつけろと言うのです?


 私が呆けていると、アトスも、アルトスも、クレアまでが物言いたげに私を見た。


 何故、何故私をそんな目で・・・。


 何故、何故こんなことにぃーーーー!!!!

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