第12話ご縁
ゴブリンの集団を退治した後、護衛四人は俺に交渉を持ち掛けた。
どうやら俺一人で倒してしまったと言うと、自分達の取り分が無くなるので、全員で協力して倒したということにして欲しいと言われたのだ。
確かに、これでは彼らの面目は丸つぶれ。
報酬もなくなってしまう。
俺は頷いて、彼らの提案を受け入れた。
こっちは食べ物を貰えればそれでいいし、実験も出来たから成果は上々といったところ。
金はまあ、今はないがこれから稼げばいいだろう。
俺達は口裏を合わせ、商人に報告し、無事それぞれの報酬を受け取った。
更に商人は、自分達も王都に行くので、よかったら馬車に乗っていかないかと提案してくれて、俺は感謝と共に頷く。
これは幸先がいい。
俺の旅は順風満帆といったところである。
それから二日ほど馬車に揺られ、道中雨も降ることなく快適な旅を楽しんだ俺は、とうとう王都へとやって来た。
「王都か。久しぶりだな」
「来たことがあるんで?」
商人に尋ねられ、俺は頷く。
「実はここの出身でね」
「へぇ! じゃあ、実家に帰省ってわけだ」
「うーん。15の時に両親を亡くしてね。天涯孤独なんだ」
「そりゃ、悪いことを聞いてしまったな」
商人は申し訳なさそうに言うので、俺は苦笑した。
「いいって。もう気にしていないんだ」
そりゃ当時は落ち込んださ。
でも、俺はその先も生きていかなければならなかった。
その頃に“早熟”のスキルが発現した俺は、ちょっとした話題になり、国王様に興味を持たれて勇者アトスと旅をすることになったんだ。
世の中何があるかわからない。
山あり谷ありである。
「それじゃあ、世話になったな」
俺は商人と護衛リーダーに頭を下げた。
「いやいや、旅は道連れさ」
「そうだぜ。あんたのおかげで俺らも楽しかったし、頼もしくもあった。だからお相子だ」
「そう言ってもらえると助かる」
名残惜しいが手を振って別れようとした時、商人が手招きした。
「ん?」
「これは少ないが」
そう言うと、子袋を手渡した。
重さと音で解る。
硬貨だ。
「え、いいよ。結局あの後危険はなかったじゃないか?」
「そうだな。だが、リーダーに聞いたが、あんた相当な腕利きだっていうじゃないか。彼らには何度か依頼をしたことがあり、わしも信頼しているんだ。その彼らがそう言うんだ。わしはあんたと会った後の旅は、緊張もせずにリラックスして積み荷を運べた。感謝しているよ」
「いや、それは嬉しいけど・・・」
結構ずっしり重たいが?
働いたのならともかく、正式な依頼も受けていない俺がこんなに貰っていいものだろうか?
小市民の俺としては恐縮してしまう。
「この縁をわしは大切にしたい。商人はそれを大事にするんだ。もしまた長旅をすることになれば、是非あんたを雇いたい。だから先行投資さ。受け取ってくれ」
「そういうことなら」
あんまり遠慮するのも変な話だ。
俺は謹んで金を受け取った。
「改めて名乗るがわしはクロス。この都でそう言えば大抵の商人は知っている。何か入用なら尋ねてくるといい」
「ああ、ありがとうクロスさん。俺も改めて名乗るがレオダスだ。よろしくな」
俺達は握手を交わし、今度こそ分かれた。
俺は先程握ったクロスの手の感触を確かめて、温かい気持ちになった。
「縁、か」
勇者アトスと冒険したのも縁。
クロスや護衛のリーダー達と会えたのもまた縁。
これが人生か。
俺はトコトコと都に入った。
因みにだが、クロスがくれた報酬はかなりあった。
目を丸くしたものだが、一度受け取ってしまったのだ。
俺は大事にそれを握り締めた。
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