第10話レベル70の世界
俺達はゆっくりと歩を進め、護衛の男がゴブリンと遭遇したと言っていた場所までやって来た。
何処かへ去っている可能性を期待したが、街道周りをウロウロとしている。
俺の気持ちとしては嬉しい部分も無くはない。
何故ならば、これで飯にありつけるし、俺の力の実験が出来るからだ。
さて、まだあっちはこちらの気が付いていないようだし、奇襲をかけたいところだな。
俺はリーダーに視線を移す。
「まずは俺が一番槍になろうと思うんだけど、どうだろう?」
リーダーは目を大きくした。
「いいのか? 言っちゃあ悪いが、あんたの報酬は飯だけだぞ?」
「それでもありがたいさ」
実験のことは伏せて、賛同を促すと、リーダーも他の三人も頷いた。
よし。
俺は鞘の代わりに巻き付けてあった布を取り、スケルトンキングの剣を握りしめた。(スケルトンキングは鞘なんか持っていなかったので布を使った)
さて、行くぞ!
気合を入れて俺は駆けだした。
風を切ってビュンビュンと走る。
自分でも驚くほどの速度で駆け抜け、ゴブリンへと迫る。
あっちが気が付かないままに、間合いを詰めると、ホブゴブリンの顔を貫く。
近くにいたゴブリンシャーマンが、何が起こったのか理解できないような顔で唖然と俺を見つめていたので、一閃。
これも斬り伏せる。
ここでようやく俺を認識したゴブリン達だったが、俺はその場には留まらなかった。
すぐに別の地点まで移動し、ゴブリン達を屠る。
元々俺は魔法剣士として、前衛で戦いつつ、中衛までこなす遊撃を担当していた。
場を引っ掻き回すのはお手の物だ。
あっという間に半分ほど減らしただろうか。
こりゃ敵わんと思ったか、ゴブリン達は撤退を始めた。
「悪いな、逃がすわけにはいかない」
これで巣に帰ってくれりゃいいんだが、このまま人間を襲ったら困る。
こいつらはここで始末する。
俺は辺りを見渡した。
よし、この辺りに人はいない。
手に魔力を集め、昨日試せなかった魔法を使うことにする。
即ち、
「“ファイアボール”」
生み出されるのは火球。
だが、その大きさが尋常ではない。
自分でもびっくりするくらい大きくなったそれは、逃げて行くゴブリン達に飛んでいく。
着弾。
ズウウウウゥン! と、凄まじい衝撃で大地が揺れ、近くを飛んでいた鳥が驚いて散っていった。
「・・・すげ」
俺自身、驚きを禁じ得ない。
まさかこれ程とは。
これって、最上級火炎魔法よりも強いよな?
炎が消え、砂埃が無くなった後、残ったのはゴブリン達の死体だった。
結構エグイ具合になっている。
実験は、成功と言っていいか。
予想を遥かに上回る成果だ。
俺の動き、あらゆる身体能力が格段に上がっている。
そしてこの魔力。
これなら誰が相手でも、どんなモンスターにも負けない。
湧き上がる力と自信で、知らず、俺はガッツポーズを取っていた。
勝利の余韻の後、ふっと視線を外してみれば、そこには口をあんぐりと開けた護衛四人がいた。
うん。
気持ちはわかるぞ。
昨日までの俺だったら、やはり同じ顔をしていただろう。
俺自身、ようやく実感できてきたんだから、それは当然の反応だ。
俺が彼らに近づくと、ビクビクっとなって尻込みされた。
大丈夫だよ。
俺は安全だよ?
「お疲れ。何とかなったな」
俺は温和な顔を作り、安全な人間だとアピールしながら手を上げた。
リーダーは顔を引きつらせ、恐る恐る俺の顔を見る。
あれ?
作戦は失敗か?
「あ、あああんた、何者なんだ? 名うての騎士? 傭兵? 冒険者?」
その質問に対し、俺は若干気まずげに答える。
「あー、その、無職だ・・・」
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