第9話ファンタジーといえばスライム、ドラゴン、そして、ゴブリンだ

 あれから俺は、しれっと宿に泊まり、朝早くに王都へと旅立った。

 決してバレるのが怖かったからではない。


 昨日見た太陽とは違った光を感じる。


 俺は昨日、早熟というスキルを失い、キャリアオーバーというスキルを手にいてた。


 生まれ変わった気分だ。


「ふ~ん、ふ~ん、ふふ~ん♪」


 鼻歌なんて歌いながら、王都へと続く道をてくてくと歩く。


 この道は比較的安全だ。


 モンスターもいないし、見晴らしがいいから山賊もあまり出ない。


 俺は素早く剣を抜剣し、その場でいくつかの型を行う。


 これまでと同じ動きをしている筈が、全く違うと感じる。


 身体がキレる。

 キレ過ぎている。


 プラス50補正、か。


 いきなりこんなになっちゃって、慣れるのにしばらくかかるぞこれは。


 そう思っていたら、ぐぎゅ~っと腹が鳴った。


 あんまりお金ないんだよなー、今。


 王都までギリギリの食料を買ったけど、やっぱり腹が減るね。


 二十代の男だからな。


 どっかで動物をとっ捕まえるか。

 最悪モンスターでも構わん。


 周囲の気配を探っていると、この道の先に多数の人の気配がした。


 なんだろうか?


 近寄ってみると、それはキャラバンだった。


 沢山積み荷を乗せた馬車が列を成している。


 渋滞だなこれは。


 今は止まっているようで、道を塞いでしまっている。


 困るなこういうのは。


 休憩なら道を開けてもらわないと。


 俺は何やら数人で話し合っている男達の近くにやって来て声をかけた。


「なあ、あんたら、ここで止まってもらっちゃ困るんだけどな」


 数人の男達。

 おそらく商人と護衛の人なんだろうけど、俺が話しかけるとぎょっとしたが、危険な奴じゃないと分かったのか、息を一度吐き、応えてくれた。


「ああ、すまんね。ちょっと問題が発生して」


「問題?」


「ゴブリンだよ。この先でゴブリンの群れが出たんだ」


 俺は目を丸くした。


「へえ、こんな整備された道にも出るのか」


 この道は王都へと続いているから整備されているし、見晴らしもいい。

 その上、定期的に騎士が巡回していると話に聞く。

 それでも出るのか。


「退治すればいいだろ?」


 俺は何の気なしにそう言うと、護衛であろう男が困り顔をする。


「只のゴブリンならよかったんだが、ホブやシャーマンも混じっていてな。その上数が50匹ほどいる」


「へえ、ホブとシャーマンもいて50か。ちょっと多いな」


 巣にでも籠ってりゃいいのに。

 なんだろう。食料を探しているんだろうか?


「そんなわけでダンナ。ちょいと危険な橋になりそうだ。ここは依頼料を上げてもらいたいな」


「ちょっと待ってくれ。金は十分に渡したろう?」


 渋る商人に対し、護衛は首を横に振る。


「あれだけいるとかなりリスキーだ。命あっての物種だしな。料金を上げないんなら前金も返すぜ。俺は降りる」


「ち、ちょっ、早まるな。こんな所で護衛を失ったらっ!」


 俺は一人頷くと、顎に手を当てた。


「なあ、それじゃあ俺が退治してやろうか?」


「「え?」」


 二人は目を点にした。


「や、やってくれるんで?」


「ああ」


 商人が聞いてきたので俺は普通に頷いた。


 すると、何やら焦った護衛が俺の首に腕を回してずいずいと引っ張る。


「お、おお。なんだ?」


「おいおい兄ちゃんよ。困るぜ、商売の邪魔されちゃあ」


 苦笑いをしつつ、護衛は苦情を言ってきた。


 いや、解るよ。解るけどさ。


「ここは料金を引き上げるチャンスなんだ。ちょっと黙っててくれねーかな?」


「でもな。俺だってこの先に行きたいんだ」


 さっさと王都に行きたい。


 じゃないと俺の腹が持たない。


 すると護衛は訝しんだ目で俺を見た。


「つーかよ。相手はゴブリンとはいえ、上位種も何匹かいて50なんだぜ? 見たところあんた一人みたいだが、やれんのか?」


「多分な」


「た、多分て、頼りねーな」


 昨日までの俺じゃ多分無理だな。


 だけど、今の俺ならいける、と思う。


 でも実際、俺自身もこの体でどこまで出来るのか感覚が掴めていない。


 これはある意味、いい経験になる。


「よし分かった。じゃあ、あんたと俺で退治するってのでどうだ?」


「二人じゃ無理だ。あっちにも仲間が三人いるからよ」


 くいくいっと護衛が指で示した先には似たような装備の男が三人。

 なるほど。キャラバンならそれくらいの護衛はいるよな。


「なら、俺を入れて五人だな」


「・・・マジでやるのか?」


 俺はコクリと頷く。


「危険には変わりないからさ。上手く交渉しなよ。多少は吊り上げられるんじゃないか?」


「う、む」


「もしかして、俺の参加で吊り上げ料金が減るとか考えてるか? 命あっての物種だろう?」


 俺は下から見上げるように尋ねると、図星だったらしく、顔を引きつらせた。


「そう、だな。分かった」


 護衛は再び商人と交渉し、その間俺は他三名と話し、交流を行った。


 共闘するとなればコミュニケーションは大事だからな。


「おーーい」


 話をしていると、さっきの護衛リーダーらしいが声をかけてきた。


「話はまとまった。俺ら五人でやるぞ」


「分かった」


 俺はコクリと頷く。


 そしてひょいっと商人の前に回り込み、今度は俺が交渉する。


「俺はさ、金とか要らないから、退治出来たら食べ物を分けてもらえないかな?」


 商人はじょりじょりと顎の髭をいじる。


「あんた元々この先に行くつもりだったのだろう?」


「そう言うなよ。50匹となると、あんたの護衛四人じゃ厳しいかもよ?」


「うーん」


「いいじゃないか食べ物くらい。そんなに多くせがまないからさ。このとーり」


 パンと手を合わせ、お願いすると、ため息をしつつも、商人はOKを出してくれた。


 よっし、どれだけ出来るか腕試しだな。

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