第4話スキル開眼

 ダンジョンに潜った俺は、低層で武器を振るっていた。


 小型のモンスター、ホーンラビットが突進してくるのを横に避け、腹に剣を当てた。


 その一撃でホーンラビットはどさりと崩れ落ち、動かなくなる。


「ふぅ、流石に安物だな」


 このモンスターの肉質は柔らかいんだが、あまり切れていない。


 殆ど鉄棒だ。


 打撃武器となると、益々重量が足りないが、このダンジョンは既に攻略されているし、レベルの高いモンスターも出てこない。

 低層なら十分だろう。


「あ、冒険者ギルドで登録すればよかった・・・」


 そうだった。

 勇者パーティーを抜けた俺は詰まる所無職なのだ。


 冒険者になって、クエストを受ければよかったんじゃないか。


「しまったな。まるで頭が回っていなかった」


 潜ってしまったものは仕方がない。


 俺はホーンラビットから金になりそうな素材をいただくと、一度戻ることにした。


 この素材も登録料で消えてしまうな。


「はぁ」


 ため息をついて戻ろうとした時、奥の方から気配を感じ、ぎょっとして振り返った。


 カランカランという軽い音と共に、そいつは現れた。


「スケルトンキングだと!!」


 スケルトンキング。


 それはアンデットの王リッチ直属の親衛隊の一員。


 スケルトンは雑魚だが、こいつは別格だ。


 なんでこんなのがこの低レベルのダンジョンにいるんだ!?


 稀にあるのだ。


 攻略が済んでいる低レベルダンジョンにも関わらず、レベルに見合わないモンスターが現れる。


 その原因は未だに解明されていないが、そうそうあるものではない。


 だっていうのに、まさかここで出くわすとは。


「・・・厄日だな今日は」





 通常のスケルトンでは決して持っていない剣を振り回し、スケルトンキングが俺に迫る。


 やたらめったら振り回しているが、その速度はかなり速い。


 俺は冷静にそれを受け止めたが、そのまま大きく吹き飛ばされた。


「おわっ!?」


 受け身を取ってゴロリと転がりながらその勢いを利用して再び立ち上がる。


「く、“ストーンバレット”!」


 俺は土系初級魔法を撃つが、ブンブン振り回すスケルトンキングの剣にぶつかり、そのまま粉砕された。


「くそ」


 そのまま剣を振り回し、再び俺の中古剣と斬り結ぶ。


 今度は足に力を込めて踏ん張るも、ギシギシと後退する。


 この野郎、骨のくせになんでこんな力が強いんだ!?


 何度も斬り結び、その度に俺の剣は刃こぼれし、腕も痺れてきた。


 マズイ。

 このままだと剣がもたない。


 再びガキンと俺と奴の剣がぶつかると、前蹴りを繰り出し、スケルトンキングは大きくのけ反った。


「“ファイアボール”」


 俺は中級の火炎魔法を放つ。


 のけ反った為に隙だらけの所に火球が直撃。


 ガラガラとスケルトンキングは骨を維持できず、そのまま地面に転がった。


「ふぅ」


 俺は汗をぬぐった。


 一人で戦うにはキツイ相手だった。


 こんな時、皆がいれば・・・。


 俺に唯一使える中級魔法が決まってくれてよかった。


 そう。

 俺は中級魔法すら一つしか使えない。


 セリシオなら光系以外、全属性使えるというのに。


「くそ」


 悪態をついても始まらない。


 それにラッキーだ。

 スケルトンキングが持っていた剣が手に入った。


 今の剣よりはマシだろう。


 そう思って剣を拾い上げようとした時。


 ピコン、と。


 頭の中でアナウンスが流れた。


『レベルアップしました。レベル20になりました』


「何!!」


 レベルアップした。


 ここにきてレベルアップしたのか!


「は、はは!」


 俺は歓喜の笑いを上げた。


 やれる。

 やれるぞ!


 セリシオめ、ざまぁみろ。


 俺はやれるぞ。


 必ず見返してやる。


 俺が抜けてしまったことを後悔させてやる。


 運が向いてきた。


 もしかしたらあの武器屋のおっちゃんは幸運の女神(笑)なのかもしれん。


 その時、


『幸運が5上がりました』


「・・・ん?」


 あれ?

 何と言ったんだ?


 幸運が、5?


「・・・それだけか?」


 俺はそのままズルズルと壁に寄り掛かるように座り込んだ。


「・・・くそ」


 ボソっと口を開いた後、なわなわと震え出した。


「くそおぉーーーーーーーーー!!!!」


 バックブローで壁を殴りつける。


 悔しさで涙が出そうだ。


「これからだって思ったのに・・・」


 よりにもよって上がったステータスが“幸運”?


 一番不確かで実感が沸かない項目じゃないか。


 それも5。

 別に多いわけでもない。


「やっぱり頭打ちなのか? もう、上がる余地がないのか?」


 とうとう我慢できずに、涙が頬を伝う。


 心身ともに疲労し、何も食べていないので腹も減った。

 今何時だ?

 眠くなってきた。


 こんなところで眠るなど危険極まりない。


 だが、自暴自棄になってしまった俺は、構わずに眠気に身を任せた。


「親父さん、俺、やっぱり駄目なのかな?」


 さっきまで頑張ろうと思っていたのに、出鼻を挫かれた気分だ。


 今は眠い。


 もし、起きた時に命があったら、その時また考えよう。


 そう思い、俺は眠りについた。


 ・・・。


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・。


 ピコン!


『スキル“早熟”の熟練度が一定値を超えました。“早熟”が進化し、スキル“キャリアオーバー”を習得しました』

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