第3話救い

 ふらふらと、俺は何も考えられない頭で町を徘徊した。


 どうすれば、どうすればいいんだ?


 これから俺はどう生きればいい。


 俺は銀貨を見つめる。


 これがあれば宿にしばらく泊っていられる。


 だが、このまま宿を探す気にはなれない。


 どこかの酒場でヤケ酒?


 そんな気にもなれない。


「これから俺は、どうしたらいい?」


 誰かに救いを求めるように、俺はぽつりと呟いた。


「ステータスオープン」


 俺はそう言って、自身のステータスを開く。


 レベル19


 魔法剣士


 体力124


 筋力98


 俊敏性102


 知力85


 魔力69


 魔力耐性54


 幸運53


 スキル

 早熟


 俺はそのステータスを見つめ、歯噛みした。


 スキル早熟。


 俺は成長が早かった。


 このまま皆よりも4,5レベル、上のままいけると思っていた。


 だが、一年ほど前から成長が止まった。


 皆が成長していく中、俺だけ置いていかれた。


 あのセリシオもスキルに“賢者の知恵(魔導書並びに魔法に関わる本の理解度が増し、速読が出来る)”“魔力強化”“魔力耐性強化”の三つがある。


 俺には一つしかなく、まったく増える気配もない。


 三年前にあった俺の心の拠り所が、今俺を苛立たせた。


「・・・剣が欲しいな」


 俺はどうしても諦めきれず、武器屋へと向かった。


*********


「いらっしゃい」


 武器屋には昔は冒険者をやっていたんじゃないかと思える程、筋肉のついた親父が俺を迎えてくれた。


 俺はきょろきょろと店の中を見渡しながら、剣を品定めする。


 どれも銀貨一枚よりは高い。


 やはり一枚じゃ無理なのか。


 親父は俺が中々決まらないので声をかけてきた。


「どんな武器をお求めで?」


「あー、剣が欲しいんだけど」


 俺は若干気まずげにそう言うと、


「手持ちが銀貨一枚しかないんだ」


「一枚かい・・・」


 親父は顔をしかめた。


「それじゃあろくな剣が買えないぜ?」


 やっぱりそうだよな。


 頭をかきながら、ため息をつく。


「この際なんでもいいんだけど、何かないか?」


 やれやれと首を振りながら、カウンターの奥から、一本の剣を取り出した。


 所々に刃こぼれがある。


 おそらくは買い取った武器だろう。


「新人冒険者が買ったはいいが、ろくに使いこなせずに売っていったやつだ。見ての通りまだ鍛え直してないから傷だらけ。切れ味も悪い」


「それなら売ってくれるのか?」


「銅貨三枚分でいいよ」


「そんなんでいいのか?」


 酒場で飲んだらその場で消えてしまう額だ。


 親父は鼻を鳴らす。


「本来ならくれてやってもいいが、一応買い取ったからな。“斬る”ってよりも“叩きつける”って感じになっちまうが、それでもいいか?」


「ああ、それで頼む」


「毎度」


 俺は使い古しの剣を受け取った。


 一度素振りをしてみると、新人冒険者が使っていたからか、俺が今まで使っていた剣よりも幾分軽い。


 攻撃力は落ちるが、仕方がない。


 俺は剣を腰に差し、親父に礼を言った。


「ありがとう」


「ああ、お前さん」


「ん?」


 店を去ろうとした時、親父に声を掛けられ、振り返る。


「なんだ?」


「ひでぇ顔だ。何があったか知らねーが、それでもお前さんはまだ生きている。そして剣を取った」


 俺は黙って親父の話に耳を傾ける。


「それはまだお前さんがあがこうとしている証拠だ。まだ絶望せずに戦おうとしているから、少ない金で剣を買ったんだ」


 コクリと俺は頷いた。


 そうだ。

 俺はまだ死んでいない。


 ここから俺はやり直す。


 俺は自分でもハッキリと判るほど、顔の生気が戻るのを感じた。


 それを見て、親父は大きく頷く。


「そんな顔も出来るんじゃねーか。金が貯まったらまた来い。今度はもっとましな剣を鍛えてやる」


 俺は再びコクリと頷く。


「親父さん」


「あん?」


「救われたよ。必ずまた来る」


 心からの感謝を込めて、俺は頭を下げた。


「いいってことよ」


 親父は大笑して俺を見送った。


 そうだ。

 俺はまだ五体満足に生きている。


 このままじゃ終われない。


 俺は近くのダンジョンに向かって歩き出した。

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