第2話絶望
冷徹に奴はそう言った。
実際に、俺は役に立っていたのかと言うと、最近は戦闘では直接活躍はしていなかったかもしれない。
だけど、索敵や、戦闘の指示、荷物持ちまでなんでもやった。
足手まといとまで言われる筋合いはない筈だ。
だけど、
確かに以前のように先頭に立って戦うことはもう・・・。
「皆の意見を聞きたい。皆もお前と同じ」
「同じです」
俺の言葉に被せて奴はそう言う。
俺は愕然とした。
「き、聞いてあるのか? 俺の追放は話し合われているのか?」
「無論です。そうそう、この間、オフと言って骨休みしたことがありましたね」
「あ、ああ」
一週間ほど前だったか。
日頃の疲れを癒そうと、珍しくこいつが提案して、クエストには行かずにオフとなり、俺はぶらぶらと骨休みした。
だが、それが今の会話と何の関係がある?
「実はね、あなたに嘘をついて、我々はクエストに行ったのですよ」
「なっ!?」
俺だけ置いてクエストに行ったって?
あいつらそんなこと一言も・・・。
「ど、どうしてだ? そんな必要があったのか?」
「実験ですよ。あなた抜きで戦えるか、ね」
俺がいなくなることを念頭に置いて・・・。
俺は縋るように尋ねる。
「そ、それで?」
「それで? 無論、なんの問題もありませんでしたよ。むしろスムーズだったと言えるでしょうね」
「・・・そ、そんな」
そういえば、皆あの時、なんだか俺を見る目が生暖かかったような気がしていた。
あの時は心にゆとりが出来たからだと思っていたが、俺以外、クエストに出たとなると、骨休みしたのは俺一人。
そんな余裕は出たりしないだろう。
つまり、こいつの言っていることは真実。
あの微笑みは『もうお前要らないよ』と言う意味。
「証明は終わりました。再度言います。出て行きなさい、あなたは不要です」
「・・・・・・分かった」
それが皆の総意だっていうのなら、是非もないだろう。
「荷物を、まとめてくる」
こいつに呼ばれて街はずれまで来たが、宿に戻って荷物を取ってこよう。
そう思ったのだが、
「それは無用です」
「なんだって?」
「そのまま去りなさい。あなたの物はパーティーの共同財産です。パーティーを離れるとなれば、持って行っていいものなどありませんよ」
「なっ! 着の身着のままで出て行けっていうのかよ!?」
「ええ」
「『ええ』って、もう夜だぞ。俺は何処に泊ればいい!?」
「知りませんよそんなもの。野宿でもすればいいでしょう?」
「・・・お前が散々嫌っていた野宿か? 『貴族の私がなんでこんなことを』とか言っていたあの野宿をか」
こいつは余程のことがない限り野宿をしようとしなかった。
そのおかげで旅の進行が遅れたことが何度もあったというのに、いけしゃあしゃあと。
こいつの身勝手さ、無神経さは心底腹が立つ。
「・・・キャンプ道具も何もないんだぞ?」
「だから? あれらも共同財産ですよ。道具がなければこれからどう旅をすればいいのですか?」
「買えばいいだろう! 俺は今一文無しなんだぞ!!」
「全く、どこまでも図々しい人ですね」
セリシオは舌打ちすると、懐から財布を取り出し、銀貨を一枚放った。
危うく地面に落ちるところを俺は慌ててキャッチする。
地面に落ちた金を拾うなどあってたまるか。
俺にだってプライドがある。
それが面白かったのか、セリシオは愉快気に笑った。
ここでこいつを殴れば少しは気が晴れるだろう。
だが、それが何になる?
この現状が変わるとでもいうのか?
俺は奥歯を嚙み、その衝動に耐えた。
「それがあればなんとか生きていけるでしょう。これは私の慈悲です。感謝しなさい」
何が慈悲だ。
その財布だって仲間の物だろうが。
そういえば、いつも俺が預かっている財布をなんでこいつが持ってるんだ?
ああ、俺がいなくなると考えて、俺の荷物から抜き取っていたのか。
・・・感謝しろ、か。
こいつにはなくとも、他のみんなには・・・。
「皆に別れを告げたい。やっぱり一度戻る」
そう言って宿に戻ろうとした俺の肩を、セリシオが掴んだ。
その顔は今までの様な余裕たっぷりの態度ではなく、どこか焦っているように見える。
なんだ?
「とことんまで愚かな人ですねあなたは。私の慈悲が解りませんか?」
「さっきから慈悲慈悲と五月蠅いな。何だっていうんだ?」
「皆、心優しい人達です。あなたを見れば心を痛めるでしょう」
そうだろうか?
俺を追放すると言っているのに、俺との別れを惜しんでくれるのだろうか?
それは俺にとって嬉しいことか?
俺は、皆に悲しんでほしいのか?
「それを見たいほど、あなたは心貧しいのですか? 送別会でもされたいのですか? 追放される分際で」
「お、俺は・・・」
「失せなさい。その顔、二度と見たくありません」
「・・・・・・・・・じゃあな」
なんとかその言葉だけ振り絞り、俺は勇者パーティーから去った。
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