第10話 アナの指摘と反省

 アナファリテの画策か、デュバルディオの希望なのか、ここ数年、ほぼ無休に近いシスティアーナに、休日が設けられ、ディオとエルネストが交互に迎えに来て、街であったり王領の湖畔の保養地であったり、貴族が社交に集まる夜ではなく昼公演マチネーで純粋に観劇に出掛けたりするようになった。


 今ではシスティアーナも、エルネストと出掛けるときに、ディオの話題を出したりはしなくなった。

 が、それはそれで、ディオと出掛けたときの様子はどうだったのか気になるようではあったが、システィアーナにそこまで気は回らない。幾ら周りからはわかりやすくても。



「あれからは、ちゃんと気をつけてるわね?」

「もう。アナ、何度も言わないでくださる? 恥ずかしいわ。わたくしも、どうして気がつかなかったのかしら」


 最初にエルネストの番が来た次の日、明らかに沈んでいるエルネストの様子に、さすがのシスティアーナも気がつき、シュンとする。


「昨日は、疲れさせてしまったのかしら。悪いことをしてしまいましたわ。次からは、ほどほどに⋯⋯」

「そうじゃないでしょう」

「え? アナ、理由をご存知なの?」


 アルメルティアとフローリアナの刺繍の手習いに、アナファリテとシスティアーナが指導に当たっていた最中の会話である。

 ユーフェミアは別件で席を外しており、居れば興味津々会話に加わっていたに違いない。勿論、メルティとリアナも聞き耳を立てている。


「外交官相手でも同じ事よ。エルネストとお出掛けした時に、デュバルディオ殿下の話をするのはマナー違反じゃないかしら?」

「あ⋯⋯」


 刺している刺繍の手を止め、口を押さえるシスティアーナ。


「改めて男性と二人でお出掛けする事なんて久し振りで緊張したのかもしれないけれど。デュバルディオ殿下とはどうだったとか、話題づくりとしては最低ね。エルネストからしたら、殿下と比べられて自分はどうなのかと言われているような気になるわね?」

「そんなつもりは⋯⋯ ディオを誉めたり比べていた訳ではないけれど、そうね。リングバルドの大使と刺繍の緻密さやデザイン性の話をしている時に、ローゼンシュタットの刺繍の素晴らしさを持ち出すなんて非礼と、同じ事なのね」


 アナファリテに指摘されて以来、二人と出掛ける時に、もう一人の事は話題に出さないように気をつけるようになったシスティアーナ。


「それで、どうなの? 少しは、男性とお出掛けのドキドキとか、互いの考えを探り合う駆け引きとか、楽しめるようになったかしら?」


 アナは刺繍の手を止めず、ただ訊いているように見える。


「お出掛け自体は楽しいわ。どちらのエスコートも案内も、スマートで大切に扱われるのも、擽ったい気持ちだけれど、ちょっと心地よいし」

「そう、それよ。擽ったい気持ちと心地よさ。それを楽しめるようになれば及第点ね」


 まだ、自分は及第点ではないのかと思ったが、口に出すと、ユーフェミアほどではなくてもあれこれ言われそうで、ただ大人しく黙って頷くに留めるシスティアーナであった。




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