第2話 お迎え

 さあ、大慌てである。システィアーナではなく、使用人達が。


 王家の人間を迎える準備と、システィアーナを王子と共に外に出すに相応しい身なりにさせるためだ。


 風呂を用意するのは間に合わない。せめて香油で拭い、下着からすべて着替えさせ、髪を整える。


 茶会や夜会ではなく街歩きをするのが目的なので、ドレスではなく、ミモレ丈のワンピースに編み上げブーツ、白い肌が日に焼けて傷まないないよう鐔のある帽子。

 手首までしかない柔らかく薄い手袋に、まだ風は冷たいので風よけのウールストール。


 装飾品はイヤリングと左手首にローズクォーツを繋げた華奢なブレスレッド。ブローチはなくストール止めもローズクォーツ。ストールを羽織るので、首飾りはなし。

 特徴的な、僅かに橙色が混じったピンク色──パパラチアサファイアの瞳は、システィアーナだと誰が見ても判るので、薄紅の髪を隠す髪型はしなかったし、それだけでも、宝飾品を飾るより華やかだった。




「僕とのお出かけに、そんなに可愛くしてくれて嬉しいよ。今日一日、幸せな気分でいられそうだ」


 艶のあるレモンイエローの髪をサラリと揺らして、デュバルディオが微笑む。

 システィアーナの指先を手に取り、跪いて口づける。


「デュ、デュオ。そんな⋯⋯あの」


 システィアーナを、薄紅の姫君だとか美しいと称賛する声はよく聞かれるが、それは父ロイエルドや祖父への忖度もあると思っているし、何より可愛いと言われたのは、幼少の頃を除いて、殆どない。

 可愛いと言われることに免疫がなく、動揺してしまう。


(カルルデュワ様に同じ挨拶をされた時は手を引き戻したくなったのに、デュオは平気だわ)


 それが、特に意識してないからなのか、デュオだからなのかはわからない。


「今日は、僕に任せてね」


 馬車に乗るのもデュオの手を借り、侍女メリアも同様に乗り込むと、デュオは玄関ホールへ向き直り、


「それでは、お姫さまはお預かりします。初めてだし、疲れさせちゃうのもなんだから、ちゃんと陽が落ちる前に無事にお返ししますので、ご安心ください、侯爵夫人レディエルティーネ」


慇懃に礼をとり、自身も馬車に乗り込む。


 流されて隣に座ってしまったエルネストとは違い、ちゃんと進行方向とは逆の、システィアーナの向かいに着席しているし、足や手が触れたりもしない。


「王都の城下町を歩くのは初めて?」

「ええ。ミアの視察に付き合うことはあるけれど、目的地まで馬車で往復するだけだったの」

「そう。じゃ、楽しみだね」


 言って微笑むデュオには、裏があるようにはみえず、腹をくくって、楽しむことにした。




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