第7話 オルギュストが好きだった?


「わたくし、もしかして、オルギュスト様のこと、好きだったのかしら?」

「「「「はぁ!?」」」」


 エルネストはフレックの公務資料を取り落とした。


 ユーフェミアはティーカップをソーサーに戻す際、はしたなくも音を立ててしまった。


「ど、どうしちゃったの? 急に。今まで一度もそんな事言わなかったじゃない」


 デュバルディオは飲んでいた茶が気管に入ったのか咳き込み、その後ろにいたアレクサンドルが気遣わしげに背をさする。

 フレックは和やかな笑顔を崩さず、両手で頬杖をついたまま、小首を傾げて自問自答するシスティアーナを観察 • • する。


「で? 何を見て考えてどう考察したらそういう結論が出たのかしら? ティア?」


 フレックを一目惚れさせたという美貌が笑みを浮かべるが、この場にいた者の皆が寒気を感じるほど、アナファリテの目は笑っていなかった。


(本気だ⋯⋯)


 王城や外出先での公務中や、公式な場ではハルヴァルヴィア侯爵令嬢、或いは愛称でシスと呼ぶが、身内で気のおけない会話や親しい令嬢達だけで集まる小さな茶会では、昔ながらにティアと呼んでいるアナファリテ。

 自分が一つ年上で、先にアナと呼ばれていたので、アーナと自称していたシスティアーナにティア呼びをさせた時から、ずっとティアと呼んでいる。


 そして、目が底光りするような鋭さをもってすわっている時は逆らってはいけないと、これまでの付き合いでユーフェミア達は学んでいる。


 アナファリテが何を言い出すのか、黙って見守ることにした。




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