第8話 好きなら出来る?
美しいが冷たい目をして、アナファリテがシスティアーナに詰め寄る。
「昨日、エル
「確かに、そういう姿を見てるとほっこり癒やされるし、リーナはとても可愛いわよね。で?」
周りが混乱しかけている事も、アナファリテが何かに憤りを感じていることも気づかず、システィアーナは続ける。
「リーナの幸せそうな笑顔を見ていたら、わたくしにもああいう気持ちを持っていたことがあったかしら?と思って⋯⋯ 考えてみたら、初めて会った時のオルギュスト様は絵本の中の騎士や王子さまのようで」
「まあ、王家にも血は近いし、貴族然とした整った容姿ではあるよね」
咳から復活したディオがため息をつく。
「この方が私だけの王子様、或いは騎士になるのね~なんて、夢をみちゃったんだ?」
「はい。それで、お茶会の度に、お菓子を焼いたり、ハーブティーをブレンドしたり、昨日のリーナのように浮き浮きしていた事を思い出して⋯⋯ だからもしかして、と」
そう言うシスティアーナに、周りは苦笑いをする。
幼い頃のシスティアーナは祖父に貰った絵本の影響で、王子さまに憧れるお姫さまだったのは、皆が覚えている。オルギュストにつれない態度で無視され続けたのに、少しでも好かれたくて頑張っていた姿も。
「いい? ティア。思い込みや理想、憧れと、好きは違うのよ? よく考えて。
あなた、アレとキスできる?」
「えっ、キッ? えっ ⋯⋯と」
再び、ディオが噎せる。アレクサンドルに背をさすられながら、涙目で、詰問するアナファリテと、狼狽えるシスティアーナを見た。
(王命のままに結婚していたら、そういう事もある、わよね? 聖王猊下や民の前で誓うのだもの)
「出来る⋯⋯と、思う。婚姻誓約の時にするもの。大丈夫だと思うわ」
「誓約のキスだけじゃなくて、おはようからおやすみまで、毎日よ?」
「え、それはちょっと⋯⋯ でも、オルギュスト様からされるなら。貴族って契約結婚が多いし、そういうもの⋯⋯」
「ティア、主旨がズレてるわよ。アレが好きかどうかでしょ? 好き好きちゅぅとか出来るかって訊いてるの」
「ごめん、もうヤメテ。アナ、朝から刺激が」
ディオの懇願はスルーされ、アナファリテは更にシスティアーナを追い詰める。
「好きなら、自分からキスできるくらいじゃないとおかしいでしょ? 結婚したら、子供も作るのよ?」
「アーナー、頼むから、許してやって」
「今は、無理だけど、あの頃なら出来たかも?」
「まだ言うのね。アレのために、私達との約束をお流れにしてアレを優先させたり、アレに尽くしたいと思える?」
「えっ それはダメよ。アナやミアとの約束は守るわ。婚約者のためでも、あなた達が優先よ」
「ありがとう。本当に恋してたらその相手が一番で、夢に見たりいつもその人のことを考えてるものよ?」
「アナ、いつもフレックの夢を見るの?」
「勿論よ。夢の中でデートもしたわ。まだ、付き合い出す前からね。キスだって、私から出来るわ」
「そ、そう。フレックが大好きなのね」
「愛してるもの。あなたのは、自分に与えられた婚約者に夢を見て、理想を重ねてはしゃいでた子供の憧れよ」
ふん、鼻から大きく息を吐き出し、アナファリテが言い切ると、拍手が上がる。
「さあ、アナの名推理で答えが出たところで仕事に戻ろうか」
フレックの号令で、蒼くなったり赤くなったりして固まっていたエルネストも動き出し、ユーフェミアも思い出したように庭園の見取り図を広げた。
「フレック兄さん愛されてるねぇ。皆の前で堂々と」
「羨ましければ、お前も恋人でも作れ」
システィアーナは、園遊会の席順の再確認と見直し作業の休憩中であった事を思い出した。
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