第5話 エルネストの宝物


「兄さんが恋文とか言うから、身構えちゃったよ」


 子供の成長を見守る親のような目で見る兄に、照れ隠しで拗ねた振りをしてみるエルネスト。


「何を言う。女性から公式な場でのパートナーになって欲しいと願い出るんだぞ? 勇気の要ることだし、一種のデートのお誘いとも言えるじゃないか。なら、恋文と言ってもいいだろうが」


 そうだろうか?


「そもそも、シスの手になる手紙は全部文箱ふばこに大切にとってあるクセに。内容に限らず、お前にとっては恋文のようなものだろう」


(な、なんで知ってるんだ!?)


 まさか、留守中に家探し⋯⋯


「何を考えてるのかだいたい解るが、部屋を物色したりしてないからな」

「掃除係のハウスメイドも私物には触りませんよ。

 私が、留守中に届く手紙を整理してこちらにお届けに参りました折、文箱が2つございましたので、分類を確認させていただきました所、システィアーナ嬢からのもののみ入れられた飾り箱と、ご友人・親戚からの手紙の束が入れられた木箱と、それ以外を紐で束ねたもの、と分けておられたようなので」


 ユーヴェルフィオを擁護するように、執事長のアルマンが、あまりにも明白あからさますぎる扱いの違いに、見たまま説明する。


「私的なものに触れるからと、アルマンの希望で私も立ち合ったんだよ。ただそれだけ。わざわざ覗いた訳じゃないよ」


 学校の騎士科に出入りしていた頃は、概ねこの邸に戻って来ていたし、友人からの親しい手紙は学校の寮に届いていたので問題はなかったが、王城の近衛騎士団の宿舎で寝泊まりするようになってからは、手紙は学校の寮へ送られたものも含め、公爵邸に転送されて溜まっていくばかり。


 執事長が緊急性のあるものと個人的なものとを振り分けて、緊急性の高いものは王城の宿舎へ届けさせ、他のものを分類して片付けようとしたのは、当然の職務であり、決して嫌がらせでものぞき趣味でもない。


 それがわかっているので、アルマンの職務の流れで兄までもが偶々知ってしまったと言われれば、それ以上追求することも出来ない。


「誓って言うが、シスの手紙は勿論、他のも、そういう振り分けなんだなあと送り主を確認しただけで、中味までは読んでないからな?」

「⋯⋯解ってますよ」


 確認してみたが、自分が先月戻った時に読んだもの以降に届いた手紙は、友人のものは木箱に入れられそれ以外は纏められて机の引き出しに入っていたが、封が切られた様子はない。


 使者が届けるような返事がすぐに必要なものは、王城のフレックの執務室に直接来るので、これまで問題はなかった。

 そういった采配も、このアルマンが有能だからこそだろう。


 令嬢に届けられる手紙を、まずは家令が確認し、当主に見せた上で問題のないものだけ令嬢の手に渡る、といった貴族家も少なくない中、プライバシーを侵さないこの執事長は、まだ信用できる。


 そう思って、疑ったことを詫びた。




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