第26話 国民を豊かにするための公僕
──思ったより揺れないのだな
アレクサンドルは、甲板の手すりに凭れ、町の灯りを見ていた。
隣町で進水式に出席し、スピーチをした後シーファークに戻り、王都に送る報告書を纏め、伝達役士に持たせた。
港での披露パーティーにも参加し、予定では王都に戻るはずだったが、ユーフェミア達が襲われた事で、仕事が増えてしまった。
エスタヴィオの代行者として、襲撃者を裁き、町のために後顧の憂いを無くさねばならない。
丘の上の山荘に戻るよりも、弟妹達と船泊した方が警備の手を分けずに済むと、予定を変更して今夜は彼らと共に客室に泊まることとなった。
「港には、時化の対策として、防波堤を築いてますからね。海に壁を作るなんてかなり難航しましたが、おかげで、こうして船も大人しいもんです」
山を切り崩し、巨石を海の中に積み上げる。
言うは容易いが、実際にやるとなると、巨石を削り出すのはともかく、運搬と、海の中に積み上げるのがとにかく大変だったらしい。
「お伽噺のように、魔法使いがぱぱっと、作ってくれれば楽なんですがねぇ」
船長は笑って、船室へ戻っていった。
この辺りは比較的温かいとは言え、王都ではまだ雪がちらつく日もある季節。
潮風も夜となるとかなり冷たかった。
「お風邪を召されますわ」
「⋯⋯やあ、今朝とは反対だね」
システィアーナが、分厚いマントをアレクサンドルの肩に描けた。
振り返ると、船内から甲板に出る扉の影でユーフェミアが手を振っていた。
「ミアも、夜景を見ないか?」
「寒そうだから、
にっこり微笑むと奥に引っ込み、シャンパンをトレーに乗せた侍女を伴って通路へと姿を消した。
今夜の披露パーティーに饗されたシャンパンをいたく気に入ったらしい。
これも、ドゥウェルヴィア公爵が海の向こうの大陸の大国と交易を始めた事によりて、定期的に輸入されるようになったもののひとつだ。
水が違うのか土壌が違うのか、コンスタンティノーヴェルのシャンパンとは風味が違った。
システィアーナは、アルコール飲料は付き合いに口をつける程度で、酒類は嗜まない。
「公爵が育てた町の灯りは、とても綺麗だね」
「はい。自慢の祖父です」
だが、その自慢の祖父がよかれと行った事で、苦しむ人もいる。
祖父の外交手腕などいい面しか見てこなかったシスティアーナの胸に、始めて影が差した事件だった。
「どんな事にも、いい面と悪い面はあるものだよ。その中で何を優先するか、見極めていくのも、わたしたち王族の務めなんじゃないかな」
公的発言では「わたし」と自称するが、身内としての日常会話では「僕」と言うアレクサンドル。
「僕」には、しもべ、従事者という意味もあり、アレクサンドルの言うには、王族とは、国民が豊かに暮らせるよう年中無休で働く公僕なのだという。
その事を胸に刻んで忘れないよう、プライベートでは自称を「僕」とするのだと言って笑っていた。
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