第27話 不機嫌な王女
マリアンナは機嫌がよくなかった。
見たこともない大きな船の進水式。壮大さに興奮したし、スピーチをするアレクサンドルもため息が出るほど素敵で、いつまでも眺めていたかった。
造船所の責任者と船長と町長に賓客として遇され、客船には女性の名をつけるのが慣例だというので、マリアンナのセカンドネーム『ティアラ』を入れて、この船は『ダイアモンドティアラ』となったのも気分がよかった。
港までの移動は船長にエスコートされての船旅で、フレック夫妻と共に特等席で景色を楽しめた。
が、アレクサンドルは乗っていなかった。
馬車で街へ帰ったという。
溜まった仕事を片付けて王都に帰る準備があるために、船旅には不参加だったのだ。
ゆったりと岬を回り込んで港に着いてみれば、客船の披露パーティーの準備は出来ていたが、
弟妹達がよほど心配だったのか、あの分を
──何よ。たかが侯爵令嬢のクセに。こっちは、隣の国でも王女よ。お父さまは王太子で、私はデュバルディオやユーフェミアの
賓客扱いを受けられたので、客室は一等室だし、船上パーティーでは念願のアレクサンドルとのダンスも踊れた。ファーストダンスだ。
だが、一曲しか踊ってもらえなかった。
パーティー開始の挨拶の後、すぐにマリアンナとファーストダンスを踊り、有力者や招待客と話しながら軽くつまんですぐに引っ込んでしまった。
──お食事なさらないのかしら?
声をかけようにも、まわりのガードが堅く近寄れず、向こうからは声をかけてもらえない。
勝手に着いて来たとは言え、一国の王女になんという扱いなのか。
自国の特産品や生活習慣などに興味津々なパーティー主催側の人々の質問攻めに答え終わり、ダンスの誘いもなくなった頃、アレクサンドルを探してパーティー会場を出る。
自国から連れて来た侍女だけを伴い、ホールから廊下に出ると、ひんやりした。
自分の肩を抱きながら、アレクサンドルを探して進むと、ユーフェミアが侍女を伴って通路の角を曲がるところだった。
彼女なら、アレクサンドルの居場所を知っているかもしれない。
駆け寄る途中、
黒い海と町の灯りが遠く暗い甲板で、月に照らされた薄く白い人影がふたつ。
アレクサンドルに寄り添うシスティアーナだった。
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