第10話 光差す非日常の朝


 海が南西に向かい夕陽が楽しめた山荘の朝陽は、山と森に覆われ、顔を出すまでが内地の王都より遅い。


 それでも空は白んでくるし明るくなる。


 システィアーナはいつもの体感で、きっちり夜明けに目が覚めた。


 個室も使えたが、ユーフェミアの希望でツインルームに泊まり、話しながら眠った昨夜は、楽しかった。


 ユーフェミアの学友として選ばれて以降、スケジュールをきっちり管理してお茶会に出るようにしなければならず、仲のよかったご令嬢達と話す機会は減ってしまった。

 夜会で談話室に集まるくらいのものである。


(こんな風に、普通の令嬢らしい夜は久し振りだわ)


 ケープを羽織ると、まだ眠っているユーフェミアを起こさないように、そっとテラスに出る。


 ユーフェミアの勉強や執務に付き合い、祖父の名代をするようになり、殆ど過密スケジュールをこなす上位官僚のような日々が嫌という訳ではないが、市井の商店の人々や一般文官達のように、休日や長期休暇も欲しいと、たまに思う。


 せめて、16歳の娘らしい穏やかな日を過ごす日を定期的にとれたら。


 が、生活のすべてが公務にも等しいユーフェミアやアルメルティア、まだ8歳のフローリアナですら音を上げていないのに、たかが侯爵令嬢の自分が役目を放り出す訳にはいかないのだと、ずっといいきかせてきた。


 オルギュストが夜会のエスコートをしなくなったといっても、まわりは彼を責めたけれど実際はそれを嘆くヒマもそんなになかったのだ。


 それに、彼と幸せな寄り添える夫婦になることを諦めてからは、さほど苦痛でもなかった。



「こんなに綺麗な眺め、たまには楽しめたら⋯⋯」


 もっと──


「いつもこんなに朝早く起きるのかい?」



 海の見えるテラスは、すぐ下が切り立った岩肌の斜面になっており、横に長く、数部屋繋がっている。

 景色を眺めるためのカウチやチェア、花や果物の彫刻飾りのついた石づくりのテーブルも設置されていて、景色を楽しめるようになっている。


 ふたり掛けセディの真ん中にゆったりと、アレクサンドルが座っていた。


「殿下こそ、お早いですね」

「まあ、いつもこれくらいには起きてるからね。公務で遠出する時は薄暗い内から支度を始める時もある」


 まだ二十歳の青年だが、王太子として、国王の名代として公務に出ることもあるし、王太子としての職務もある。

 システィアーナには、自分とは比べ物にもならないくらい大変なんだろうと想像する事しか出来ない。


 座っていたセディの片方に寄り、一人分空間を空け、にこりと微笑むアレクサンドル。


 断れず「失礼します」と隣に座る。


 一瞬触れた手首が冷たかった。


 ──いつからこうしていたのだろう




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