第2話 白旗を掲げるにはまだ早い?

 国一の高級菓子を食してみたい。

(アレクサンドルがよく使うと訊いたから)部屋にカサブランカを飾りたい。

(アレクサンドルが好きだと聞いたから)栗の菓子を用意しろ。

 自分の紅っぽい栗色の髪に合う宝飾品とドレスをつくりたいから手配しろ。


 自国では通ったのかもしれないが、無理なものは無理である。



 国一の高級菓子と言われても、各々の好みもあるだろうし、具体的にどういったものが欲しいのかは聞かされないので、高位貴族の間で人気のあるものを用意しても、一口口をつけただけで期待外れだと残りは放り出す。


 まだ雪も降る新春に、夏の大輪の百合であるカサブランカを用意するのは難しい。大規模な温室設備を抱えた園芸業でも、そうそう扱っているものではない。

 実はアレクサンドルが慰霊祭や外交上の贈り物に添えるのに好んで使うので、王宮の温室には幾らか育てられているが、システィアーナの権限で都合することは出来ない。


 栗も秋の味覚である。

 保存しても水分が抜けて風味が落ちるし、大抵が虫喰いに合うので、氷室にしまってもそんなには保たない繊細なものだ。

 無理矢理状態維持を図るまるで魔法のような技術はなく、今の時期、茹でたり焼いたりしたものを凍り漬けにした、とても一国の姫君に提供できる代物ではない。


 宝飾品やドレスを作りたいとはどこまで図々しいのか。国に帰ってから勝手にやれ、と、アルメルティアは言う。国は違えど同じ王族の、血の繋がった従妹いとこならではの発言である。

 勿論、面と向かって言った訳ではない。


 マリアンナがいない場での、内々での発言である。


「メルティ。王女さまの前で言ってはだめよ?」

「言わないけど、言いたくもなるわよね。デュー兄さまを独り占めしてたかと思えば、我が儘ばっかり。季節外れのものを用意するのがどんなに大変か、自分もやってみればいいのよ」


 システィアーナ1人で世話係をしている訳ではない。


 自国から連れて来た侍女が5人、小間使いが7人と、この国でのもてなしと便宜を図るための王宮付きの侍女やメイドをたくさん手配してあるし、システィアーナと連携して、アルメルティアが臨時外交官として対応しているのである。


「とにかく、勝手すぎるわ」


 菓子は一部は自分のメイドに手配させたし、一部は自分でも携わったり手作りして対応したりしている。

 システィアーナも菓子はたまに作るので手伝ったのだが、システィアーナが作ったと聞くと、不味いだのもう要らないだの言い出す始末。


 自分メルティの利用する宝飾商やデザイナーを呼んでもいいが、費用は誰が払うのか。

 王女がポケットマネーで払うのか、リングバルドにつけるのか。いや、賓客の費用を相手国にツケるなんて格好の悪い事はしたくないし、したところでケチだの貧乏だのと言われたくない。

 かといって、経費で落とすなんてもってのほかだ。無駄なとまでは言いたくないが、国民の血税をワガママ王女のドレスや宝飾品に使いたくない。


「白旗をあげるようで気が進まないけれど、お母さまにそれとなく言ってもらおうかしら?」


 叔母であるクリスティーナから窘められたら多少は態度を改めるのではないのか。


 それはそれで有りかも知れないが、アルメルティアからしたら敗北のような気もしていた。


 自分で収められないのかと。


 それは、システィアーナも同じであった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る