小さな嵐の吹くところ

第1話 難物現る

 国内の令嬢なら、現職宰相の娘で侯爵令嬢、先々代王弟を祖父に持ち当代国王のまた従妹いとこであるシスティアーナに、何かしようとか無理難題を押しつけたり意識的に遠ざけようとかすることはないが、他国の者ならどうか。


 システィアーナは、すっかり困り果ててしまっていた。


「気にすることないわ。あっちがおかしいのよ」

「そうよ、ティアは悪くないわ」

「何様のつもりかしら?」

「王女さまでしょう? ただし、よその、ね」


 エスタヴィオの側妃クリスティーナの主催するお茶会に故国の姫君マリアンナが出席していて、システィアーナは彼女の世話係を任されていた。


 が、この姫君は、姿形こそクリスティーナの縁者らしい美しさを持っていたが、中味は少々美しくなかった。


 早い話がちょっぴり高飛車で少々我が儘なのである。


 クリスティーナの姉妹ではないが、年の離れた兄の娘、早い話が故国の王太子の次女で姪であった。


 お国ではさぞかし大切にされてきたのであろうが、ここはコンスタンティノーヴェル。リングバルドと同じようにしてもらっても対応しかねますと言いたいところだが、クリスティーナの姪で、隣国の王太子の次女とあっては、そうそう塩対応ばかりもしていられない。


 システィアーナの性格的にも、適当にあしらうという事は出来そうになかった。


 それを解っての我が儘なのではないのか。


 友人達もサポートはするものの、当の王女が遠慮することなくシスティアーナをこき使うのである。


 何度か使節団について来たのは外交の訓練だったらしいのだが、たいしたことも出来ないまま、それでも隣国の王族として歓迎の夜宴会にはしっかり参加していた。

 そこで従弟いとこでもあるデュバルディオにべったりしてダンスも相手をさせていたが、それは最低限の必要がなければ踊らないアレクサンドルに相手にされていなかったからである。


 ところが、別件で再度入国してみると、訪問先の国ではともかく自国内ではほぼ誰とも踊らないアレクサンドルが、システィアーナと踊っているではないか。


 すっかり口を尖らせ機嫌を損ねたマリアンナは、隣国の王族として賓客扱いなのを笠に着て、世話係につけられたシスティアーナをこき使ったり、無理なことをさせようとしたりするのである。


 嫌がらせのようにあれこれしてくる理由が、アレクサンドルと踊った事にあるのを理解しているのはユーフェミア達王家の者と、一部の外務官達で、システィアーナの友人達はそこまでは知らない。


「自国を離れて心細くていらっしゃるのかも」


「だからと言って、なにをしてもいい訳じゃないわ」

「王家の方々と近しいシスティアーナに、わざと意地悪をしてるのよ」

「そんなことで、自国の名を貶めるような恥ずかしい子供じみた態度をとるかしら?」

「考えすぎかしら」


 実は正解である。


 とにかく、世話係という名目で傍につけられたものの、侍女という訳ではない。庶務の窓口のようなものだろうか。

 が、マリアンナがシスティアーナを侍女か雑用のメイドのような扱いをするので、友人達はすっかり、マリアンナを敵認定していた。




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