第3話 港町シーファークにて
賓客(隣国の王女)がいても、公務が休みになる訳ではない。
ユーフェミアとデュバルディオに伴って、ドゥウェルヴィア公爵の名代として、王都より南に位置する港町の視察に訪れていた。
近隣諸国の大使館もあり、船で入国する人達や荷物の検閲なども行われる大きな街である。
王の補佐や代行を行うアレクサンドルや内政に携わるフレックに対し、隣国の王女を母に持つデュバルディオは、母や使節団と共に諸国を回る事が多いので、外交担当となっている。
その関係で祖父ドゥウェルヴィア公爵とも交流があり、4人の王子の中では一番顔を合わせることの多いのがデュバルディオである。
「シスは、シーファークは初めてかい?」
「いえ、小さい頃に何度か、お祖父さまと来たことがあります」
まだ外交官として王宮に出仕していた頃から祖父に可愛がられて王宮にも連れ添い、王女達の勉強やレッスンに付き合った後、祖父の公務にも同行した事が多く、社交デビューし王女達の公務に伴うようになるまで、システィアーナは祖父の仕事を見て育ったのだ。
「公爵さまの仕事ぶりを見て育ったのだもの、シスが公務に秀でているのは当然よね」
先々代王弟であるシスの祖父は、ユーフェミア達から見ても敬うべき人物である。
「王女なのに、公爵を様付けなの?」
なぜか、いるはずのないマリアンナが、ユーフェミアに、王家が臣下たる公爵を様付けするのかと口を挟んだ。
「マリアンナ殿下。ドゥウェルヴィア公爵閣下は、この国では名の通った名士なのですよ」
そして、休暇中のはずのカルルもいる。
公務についてくると言ってきかないマリアンナのお
「ドゥウェルヴィア公爵さまは、先々代王弟よ。先代王のお祖父さまの叔父さまだもの、私から見ても、敬うべき年長者だわ」
「ただの王弟じゃないよ。南の海洋産物の貿易に随分貢献されてきたし、南クラフタス諸島共和国との国交を成立させた凄腕の外交官でもあったんだ」
「ふぅん?」
あまり興味はなさそうである。
「それより、まだ雪も降るような一の月のはずが、ここはなんて暑いの? 天幕の下にいても焼けそうよ」
「南の海風が湿った温かい風を運んでくるので、この辺りでは雪も降らないし、冬でも厳しい寒さはないのですよ」
さすがに日焼けするほどの日差しではないが、王都の寒さに合わせて着込んでいたので暑くてたまらないのだろう。さきほどからマリアンナは、冷たい果実水を何杯も摂り、着てきた上着を二枚も脱いで侍女に持たせている。
「信じられないわ。馬車で数日の距離でこんなに気候が違うなんて⋯⋯」
そう言いつつも、侍女に果物や冷たい飲み物を注文している。
「マリアンナ王女殿下。冷たい飲み物を繰り返して摂られては、身体によくありませんわ。必要以上に中を冷やします。せめて冷たくないものをお摂り下さい」
「お前には聞いてないわ。私は好きなものを食べ好きなものを飲むのに、お前の指図は受けなくてよ」
善意で言っているのに、とりつく島もない。
「放っておきなさいな。ついてきて下さいと頼んだ訳でなし、カルルがなんとかするでしょう。お腹壊してみれば、少しは大人しくなるわよ」
ユーフェミアは、マリアンナには聴こえない小声で囁き、システィアーナとディオの背を押して、天幕から出て、視察を再開する。
「行く先々で暑いだの、喉が渇いただの、足が疲れただの。予定が遅れるわ。何しに来たのかしら。
カルル。王女殿下をよろしくね」
カルルにマリアンナを押しつけ、予定より遅れている市場の視察に向かうことになった。
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