第23話 やるかやらざるべきか

 システィアーナを想う合間にユーフェミアやアルメルティアを見ろと言われても、いきなり恋愛対象として見られるものでもない。

 が、系譜をたどると、エルネストからみてエスタヴィオは母方の三従兄みいとことなる8親等の親族でもある。


 その子供であるユーフェミアやアルメルティアも、三従兄姪みいとこめいの9親等傍系血族と言える。

 5親等親族までは婚姻は認められないが、傍系血族は逆に血筋を保存する意味から推奨される事も少なくない。


 まだ3年はシスティアーナを諦めなくてもいいよと道を残されているようで、その実ユーフェミアやアルメルティアを選べと逃げ道を塞がれているような気もした。



 ディオの執務室を出て、共にフレックの執務室に戻ると、三人で話していて滞っていた業務が机の上に山積みになっていて、急を要するもの、明日以降でもいいもの、来期の予算案で二月は待てるものなど、まずは振り分けから始める。


 フレックの私設秘書を始めて最初こそ戸惑ったものの、今ではだいたい判断を間違えることなく振り分けられるようになった。馴れと経験である。

 秘書を続ける内に、宮廷の事や貴族達の力関係、自分達の業務の結果が、民の生活にどう影響を与えるのかを理解し始めていたのもある。


「やっぱりさ、エルは僕の護衛官を兼任しながら、このまま秘書を続けて欲しいな」


 ありがたい話だし、王子に望まれるなど身に余る光栄というやつだと、エルネストは考えている。

 とは言え、じゃあこのまま秘書を続けます、とは返事しづらかった。

 エスタヴィオやアレクサンドルに比べれば若干時間にゆとりはあるが、内政の一部を受け持ち、貴族間の力関係の調整も行っているフレックも、決して閑職とは言いがたい。


 正式に配属されてしまったら、システィアーナにしろ他家の跡取り娘の婿に入るにしろ、領地管理の時間が取りづらくなる。

 そのための時間を捻出できなければ、ただ子を成すためだけに婚姻するようなもの。

 結婚するからには、相手を支えて寄り添える夫婦になりたい。


 騎士なら時間がとれるのかというとそうでもないのだが、騎士は肉体労働、交代制だ。

 だが、王家の私設秘書ともなると、自由時間は限りなく少なくなるだろう。


「考えすぎだよ。僕たちだって、国政を総て執り行っている訳じゃない。大臣や官僚、文官や執事、秘書、その他多くの役人達に支えられ、役割を分担してひとつの国の政治を行っているんだよ。領地経営は、その縮小版だ。執事や管理人、宮廷から派遣された官僚に任せて、業務報告から判断して指示するだけでも、領地管理にはなるんじゃないかな?」


 エルネストの父が、最前線で働きたいと世界を飛び回るのが常識から外れた公爵家当主で、その多くはロイエルドのように職務を執事達に分担し総括するだけで、中には、領地管理の総てを配下の下級貴族にやらせたり、他人を雇って数字だけを管理したりする者までいる。

 ロイエルドは基本的には王宮に詰めて宰相として議会の統制、各貴族の掌握と管理を主に行っている。

 また国王の秘書のような役割も持ち、そのスケジュール管理も行っているのでかなりの量の職務がある。

 当然、宰相を継ぐ前より仕事量も拘束時間も長くなり、領地は秘書や執事と文官達に任せる事になっている。

 また、未来の女侯爵としてシスティアーナも、折を見て手伝っている。


「まあ、色々と悩むだろうけど、とりあえずは構えずに、自然にいつも通りやってみたら? 少なくとも、どこかの私設騎士をやるよりかは、シスと顔を合わせる時間は多くなると思うよ」 


 システィアーナを引き合いに出せは、釣れると思われているのかと肩を落とすエルネスト。だが、正解なので文句は言えなかった。




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