第22話 義弟よ?

「それ、僕が脳天気なお莫迦さんに聴こえるけど?」


 勿論、爽やかな笑顔と人当たりの良さ、親しみやすい性格が多くの人に好まれているフレックだが、王家の次男として内政に携わり、また、諸国からの使節団とも応対するのに、笑顔それだけであるはずもない。

 アレクサンドルのようにアルカイックスマイルではないというだけで、フレックとて、表向きの笑顔と腹の中の本音の違いを隠している。


 とりつく隙のないアレクサンドルが目立って他者の気をひく陰で、始終笑顔で返しながらフレックが、企みや本音、人物の本質を見抜き、それをデュバルディオが外交に活かすという流れが出来ていた。


 アレクサンドルには揉み手をしながら腰の低さを出して本音を隠してゴマをする宮廷人達も、いつも笑顔で毒を吐かないフレックには本音の見え隠れする言葉もついポロリとこぼしてしまうらしい。


「フレック兄さんの事を、親しみやすい気軽な王子様だと思ってる人が多いけど⋯⋯」

「むしろ、僕は、王太子殿下よりフレックの方こそ、怒らせたらいけない人物だと思う⋯⋯」


「最高の褒め言葉だね、ありがとう」


 顔立ちは似てないのに、エスタヴィオにそっくりな笑顔で返すフレックに、少し気圧されそうだった。


「僕には、複数の縁談があって、それを陛下とロイさ⋯⋯宰相で留めているらしい」


「ちなみに、相手は誰か訊いたかい?」

「⋯⋯この中から選べと、数人を。別紙に書かれた侯爵家や伯爵家、大商家などはチラッと見せられただけで、紹介する気もないみたいだった」

「気になるというか、シスがフリーにならなければ選ぶしかなかったんだけど、選んでもいいかなって子はいた?」


 目を大きく開いて、面白いものを見る子供のような表情で訊いてくるディオ。


「⋯⋯シスじゃなければみな同⋯⋯」


 もしかして、二人はエスタヴィオから事前に聞いていたかもしれない。

 ユーフェミアやアルメルティアと、他の令嬢をひと括りにして、気を悪くするだろうか?


「うん、それは知ってる。その上で敢えて選ぶなら、だよ」

「エステールの侯爵家、王女二人のどちらかの、三人から選んで欲しそうだったね、陛下」

「押し付ける気はないとは思うけど、娘の婿にするなら、知ってる目をかけてる子をめあわせる方がいいよね、親としてはさ」


「妹だから言う訳じゃないけど、確かに、ユーフェミアはエルネストのファンではあるんだよ。時々、アスヴェルとの訓練をこっそり見てるし、シス一途でブレないところを褒めてたりするし」

「王女として、自由恋愛は難しいと思ってるから、身近にいる好感持てる騎士に目がいくのはよくある話なんだけど。エルネストは多分、王宮内では珍しいけど真っ直ぐで素直で裏切らない性質が、ミアに限らず人を惹きつけるんだよね。国内外の貴族たちを見てきた僕が信用出来る、数少ない友人なんだからね」


 ディオはにぃっと笑って、エルネストの肩を組み、機嫌よさそうに黄金色の髪を掻き回した。


 ディオにクシャクシャにされたサラサラの金髪を手櫛で直すエルネストが、兄弟に笑みを誘う。


「恋愛結婚した僕が言うのもなんだけど、結婚相手として見なくていいから、シスを想う合間にミアやメルティも見てあげて?」

「あの二人の良さをもっと知ってあげてくれるかい? もちろん、結婚を前提にお付き合いしろなんて言わないよ」


 とはいえ、エルネストを義弟おとうとと呼べる日が来るのもいいかとも思っている二人であった。




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