第8話 システィアーナのパートナー
名を呼ばれ、アレクサンドルの肘に手を置いて、王家の座る雛壇の裾からホールへ出る。
システィアーナは王家の人間ではないが、アレクサンドルのパートナーとして、国王、大公の前の最後から三番目の登場だった。
壇上からホールを見ると、公爵家の人々が待つ区画の端に、ユーヴェとエルネストを見つける。
エルネストは、数段高くなった王家の立つ雛壇に、アレクサンドルにエスコートされて出て来たシスティアーナに驚いていたようだ。
(わたくしだって聞いてなかったし、驚いているのよ)
軽く首を振ると、ユーヴェが何かを囁いていた。
「ユーフェミア王女とフレック王子の発案らしい。アレクもシスも知らなかったようだよ」
それでエルネストが納得したかは判らないが、驚愕顔で壇上を見るのはおさまったようだ。
続いて前国王ウィリアハム大公、国王夫妻がクリスティーナ妃とエメルディア妃も伴って登場し、
エスタヴィオが正妃エルナリアの手をひき、初めの曲を踊り、二曲目をクリスティーナ妃、三曲目をエメルディア妃と踊ったが、大公は健康上の都合か玉座から立つことはなく。
「では、薄紅の姫君。わたしと一曲踊ってくださいますか?」
アレクサンドルが胸に手を当て腰を折って請うと、やはり、システィアーナに拒否権はなさそうである。
「大丈夫。わたしはあまり人前で踊らないけど、ちゃんと踊れるから。子供の頃は何度も踊っただろう?」
確かに十年ほど前はまだエスタヴィオが王太子で、王子王女達はみんな纏めて礼儀作法やダンスを学んだりした。
その中に、ファヴィアン、ユーヴェ、エルネスト、システィアーナも混じっていた。
まだ7つのエルネストはダンスもそこまでうまくなく、ステップを間違えない程度。
12歳のファヴィアンや10歳のユーヴェやアレクサンドルと踊る方が綺麗に踊れるので、よく三人と踊っていた。
当時はおしゃまな子供だったシスティアーナは、すでに長身だったファヴィアンやそつなく規定通りで面白みのないユーヴェより、踊りも見た目も綺麗で優しい本物の王子様のアレクと踊りたがった。
当時の自分を叱りつけたい気持ちになった。
なんて身の程知らずな我が儘娘だったのだろう。
本物の王子様と踊りたいだなんて⋯⋯
あの頃よりずっと洗練された動きで、アレクサンドルのリードで滑るように踊り出した。
「あの頃の君の言葉忘れてないよ。『ティア、本物の王子様と踊りたい!』に続いて、ファーはのっぽすぎるしユーヴとフレックは型通りすぎて面白くないし、エルとオーは子供すぎ、だっけ?」
全部覚えられていた!! 自分が覚えていなかった、オルギュストとエルネストを子供だと、より子供で幼女とも言える五~六歳児の自分がそんな事を言っていたとは!
穴があったら入りたいとはこのことか。
「こ、子供の戯言ですわ。忘れてくださいまし」
「くくく。あれがよほどショックだったんだろうね、フレックもディオも、勿論ユーヴェやエルネストも、君の見てないところでかなり練習していたよ」
しかも、ユーヴェやエルネストには「本物の王子様」の垣根を越えられないのだ。
かなり酷いことを言ったのだと自覚はあった。
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