第5話 揃いのドレスを

「ねえ、今年は色を合わせましょうよ」


 言い出したのはユーフェミアであった。


「色をですか?」

「そう。お馬鹿さん (オルギュスト) と衣装を合わせる必要はなくなったでしょう? だから、ね? 私と揃えてみない? ああ、いっそ、デザインも合わせましょうよ」


 楽しそうにデザインを考えるユーフェミアに、断り切れなかったシスティアーナは、今年だけならいいかと、いっそ、ユーフェミアと揃いの装いをすることを楽しむことにした。


 薄紅の淡い金髪のシスティアーナとクリーミィブロンドのユーフェミアは、緩く波打つ艶のある髪質は似ていて、目の色を除けば、二人とも同じ王家の血をひくだけあって姉妹でも通る。


 五代前の女王が見事な赤毛で、磨かれた赤銅のような髪をしていたという。


 祖父や母から赤味を父から淡いベビーブロンドを受け継いで、薄紅のピンクゴールドの髪が出来上がったのだろう。

 ドゥウェルヴィア公爵はあかつやが濃い金茶の髪。

 母エルティーネもシスティアーナより少し紅いローズブロンドで、若い頃は薔薇姫と呼ばれていたらしい。



「シスはいつも、お馬鹿さんに合わせて、榛色はしばみのチュールを重ねたり、金茶の濃い地味なドレスを着ていたでしょう? 今年は、綺麗な色にしましょう?」


 ゴールドブラウンのドレスは地味ではないと思ったけれど反論はせず、ユーフェミアの好きにデザインさせる。

 話が出たのはまだ霜が降り始める頃であったが、何度もデザインを訂正し、何度も仮縫いを行い、出来上がったのは聖シルウェルヌス降誕祭直前であった。

 アクセサリーも同時進行でデザインを始めて結果的にはよかった。でなければ、ドレスが完成してからでは間に合っていなかっただろう。


 チュールより柔らかいシフォンを幾重にも重ね、ドレープや広がった裾に細かな宝石を縫い付けてビーズやスパンコールよりも煌めく、もしかしたら王妃よりも目立ってしまうのではないかと心配するようなドレスが出来上がった。


 淡く薄紅に艶めくシルクのシフォン生地を重ね、パールやピンクサファイアの粒を刺繍に織り交ぜる。

 今年の夜会ではAラインやプリンセスラインのドレスが多かった中、体型に自信がないとツラいエンパイアラインに、マーメイドのように後ろに少し裾が広がるようにシフォンを重ねるというデザインになった。


「いつもの薄紅の姫君もいいけれど、こういったキラキラお姫さまも絶対似合うわ」


 本物の王女にお姫さまのようなと言われても。システィアーナは苦笑しつつ、五人の侍女に着付けられていく。


 ユーフェミアのお気に入りのデザイナーに少しづつデザインを変えて揃えで作らせたので、仮縫いも完成したものの保管もこちらで、今も王宮のユーフェミアのクローゼットルームで同時に着付けられているのである。


 壁際のカウチで、微笑んでいるエルティーネ。


 重ねたシフォン生地の色合いと光の当たり具合で、薄紅にも淡い金色にも見える光沢のあるドレスに、システィアーナは心が浮き立つのを感じた。


 薄紅や黄のドレスを着るなんて何年ぶりだろうか。

 茶会でも、オルギュストがエスコートする時は色味は合わせていたし、デビュタントしてからは常に、エスコートしてもしなくてもオルギュスト色の、落ち着いたドレスしか着てこなかったのだ。


「忘れ物よ」


 ユーフェミアは、会場へ向かうべく部屋を出ようとしたシスティアーナを呼び止め、振り向きざまの薄紅の髪に、女王の白薔薇を一輪挿した。




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