第4話 シルヴェスター

 新しい領地の管理にもなれてきた頃、王都や侯爵領に初雪が舞い始め、冬の慰霊祭と王家主催のシルヴェスター(迎春慶賀祝宴)が間近になる。


 1年の最後に、満月の夜、聖人シルウェルヌスの降誕祭を街や家族単位で静かに行い、大晦日おおつごもりに先祖の墓に参り、一年の守護を感謝して慰霊のため新年の幸福を願って白い花を添える。


 年越しの瞬間は、王城や領主館など各地で花火が上がり、上位貴族は王宮で年越しの祝宴シルヴェスターに参加し、他の貴族も民間人も、ホームパーティーで新年を祝う。


 王家に縁の深いハルヴァルヴィア侯爵家も、先祖の慰霊もシルヴェスターも、王宮で迎える。

 昼間の慰霊祭には同席するものの、まだ10歳で夜更かしは成長によくないリーナは、邸で家族と花火を見ていつもよりちょっといい晩餐をとり、眠りにつく。

 年越しの瞬間の遅くまで起きていられないリーナのために、侯爵家では、通常より早く花火を打ち上げ始めるのが恒例であった。

 それは、領内の他の家庭でも喜ばれた。



 国王エスタヴィオを筆頭に、大公、王太子アレクサンドル、エルナリア王妃、クリスティーナ妃、エメルディア妃、王子王女達、王族と公爵家から序列に沿って順に、代々の王家と高位貴族達の眠る墓地に白い献花を行っていく。


 ここでもシスティアーナは、祖父ドゥウェルヴィア公爵と共に、王家の墓に白水仙やレンテンローズなどこの時期に咲く白い花を添えた。


 どの公爵家よりも早く王家の次に献花台に上がり、台の上で献花する人々を見守るエスタヴィオとアレクサンドルに会釈して進む。


 夏の花のはずの白い大輪咲きの百合が目に入る。

 温室で育てられている白百合が、毎年アレクサンドルの捧げる花であった。

 白百合は、献身や聖人のイメージがあるので、アレクサンドルは好んで使っていた。そのため温室には、王家の白薔薇と並んで、この大輪の白百合を育てる一角も設けられている。


 システィアーナは、自分の献花の番でこそ一年の無事への感謝を先祖に祈ったが、王家の面々が献花の間は、その伏せて祈る横顔がそれぞれに個性があるものの、みな整っているだけではない美しさがあると見蕩れていた。特に、エルナリア王妃とその子アレクサンドルとユーフェミアは、紅を引かずとも紅い唇も、真珠のような煌めきのある白い肌も、その造形美を際立たせていると思って、飽きず眺めていた。


 ユーフェミアと目が合い、恥ずかしくなって俯いていると、今度は侯爵家として、献花の順番が来る。


 母方の祖父母公爵夫妻は存命であるが、父方の祖父母はシスティアーナが幼い頃の冬に亡くなっている。とても寒い日だったと記憶している。


 慰霊祭の後、領民の年越しの様子を少し見てから一度やしきに戻り、花火を見ながら晩餐の後、盛装で王宮のシルヴェスターに出席しなければならない。


 ロイエルドが宰相を継いでからは、両親が欠席するのはあり得なかった。


 正式にオルギュストと婚約解消して初めての公式行事である。

 いつものようにドレスや宝飾品の準備に、婚約者に贈られるのか自分達で用意するのか、パートナーオルギュストの衣装デザインや色彩に合わせる事も、悩む必要はなかった。




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