第3話 女領主と荘園管理者

 社交シーズンに入ってからふた月経過し、新年を迎える前になると、どこでも慌ただしくなってくる。


 ハルヴァルヴィア侯爵領でも冬本番を迎える前に、領民がちゃんと冬を越せるか、新年を迎える態勢を整えられているか、各町の代表者と共に領地を巡ったり穀物倉を点検したり、宰相として城に詰めているロイエルドに代わってシスティアーナは忙しくしていた。


 更に今年は、エルネスタヴィオ公爵領から割譲された、システィアーナ個人の領地がある。

 ロイエルドに仕える執事の内、古参で土地管理に長けた50がらみのユーグレストと、侍女メリア、数人の私設護衛騎士を伴って、公爵家から譲渡された王都にも隣接する領地へ向かった。


 荘園管理主のやしきに着くと、領地管理の秘書官として公爵家から引き継いだ文官ノイタヴィア子爵が待っていて、荘園管理主に新たな領主を紹介し、改めて事情や今後のことなどを話した。



「⋯⋯と言うことでして、陛下の印璽入りの公式文書にて、このハルモニアス荘園は、エルネスタヴィオ公爵領から割譲されこちらのドゥウェルヴィア次期女公爵個人の土地となったのです。この先、次期さまが個人的な理由で手放されるか咎を負って陛下に奪取されない限り、個人の土地として登記され領主が代わることはありません。次期さまが子を持たれ往生なさっても、そのお子様個人の土地となります」


 本来、領主は統治して税を徴収、領民を保護していくが地主ではなく、地主は土地の権利者だが、統治権はない。

 が、この荘園のすべての土地がシスティアーナ個人の持ち土地であり、領主も、エルネスタヴィオ公爵でもハルヴァルヴィア侯爵でもなく、システィアーナ個人に統治権があるという。


「なんというか、領地というか、自治領とか独立小国のようですな」

「いいえ、納められた税の多くを更に国に納めるのですから、独立国と言うことはないでしょう」

「では、属国とか連邦政府のようなものですかな? コンスタンティノス家に属するドゥウェルヴィア公国ですな、ハハハ」


 荘園管理者は、立派な腹を揺すって大笑いした。

 特に国もシスティアーナ個人も莫迦にした風ではないので、こういう人物なのだろう。


「何はともあれ、私はこの荘園内の農地をよくし、商業を回して、より発展させていくための管理を続けるだけです。領主が代わろうとも、民にとってはよき領主か悪しき領主かしか関係はありません。そして、私としましては、同じ管理業務をするに当たって、報告をあげる時にお美しいご令嬢の方が、張りがあるというもの。発奮こそすれ、落胆することはありませんからな。これからよろしくお願いいたしますよ」


 多少品格に欠けた部分はあるかもしれないが、庶民出ゆえのちょっとしたもので、明るく前向きな人物には違いないようで、システィアーナはホッとした。


 公爵家だから仕えていたのに、小娘に成り代わるなど相手に出来ないと拒絶されたり、当たりのよい様子でいて内心小馬鹿にしていたりしないだけ、付き合いやすそうであった。


 この管理者が地主代行のような役割で農地開発をしたり経済活動を行い、数値や資産運用などの管理をノイタヴィア子爵が代行してきたので、この先も重要案件の決裁はシスティアーナが行うが、運用管理はこの二人に任せる事で合意した。


 システィアーナが長く不在し、それでもどうしても領主の決裁が必要であった場合、ユーグレドが委任状をもって代行するという契約も取り交わし、領内の慣習や特色に馴染むまで、定期的に領内を視察する事となった。




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