第2話 王妃のお茶会

 お茶会で着く席は、王妃エルナリアとエメルディア妃とで采配されるもので、システィアーナに忌避感のある家の夫人とは同席しないよう事前に考えられている。


 それでも、序列の高い家の跡取りとして突然出て来た娘は、ある程度の予測はあったとはいえ、すべての者が快く受け入れられるものではないだろう。


「その後、良縁に恵まれまして?(まだならうちと)」

「経済学を修めた息子がおりますのよ(婿にいかが?)」

「(王子達とも仲がよろしいのでしょう?)うちの娘とも仲良くしてくださいね」


 一見好意的に思える言葉にも下心が透けて見える。


 隣国の王家の血をひくデュバルディオや未成年のトーマストルは勿論、二十歳になる王太子アレクサンドルにも婚約者はいない。

 新婚のフレキシヴァルトは、実は恋愛結婚である。

 フレック本人の婚約者候補として集められた令嬢達ではなく、ユーフェミアの学友として用意された令嬢の中にいたアナファリテを茶会で見初め、フレックから距離を縮めて交際を重ねた結果の愛妻だ。


 あわよくば、システィアーナを通じて、自分の娘を売り込みたいのかもしれない。

 息子がシスティアーナに気に入られたら、宰相の義理の息子でかつ王族の伴侶になれるのだ。


 多くの夫人は、子供の売り込みに熱が入っていた。


(今更ながら、お祖父さまの孫である事は、わたくし自身を見てもらいにくい事でもあるのね)


 今でこそ、外交問題に口を出さなくなった祖父であるが、システィアーナがまだ10歳になったばかりの頃は、貴族議員としても宮廷へ出仕していた。


 王宮の王家のプライベートエリアへもシスティアーナを伴い、当然、王子王女達ともよく会っていた。

 その時も、母国語は使わずに異国語で言葉遊びをするものだから、正妃の三人の子供と側妃クリスティーナ・リングバルド王女の二人の子供達は、みな数カ国語で会話できるのである。


 初めこそ王妃の振った話題で盛り上がっていたが、気がつけばみな、システィアーナにおもねるようなそぶりを見せ始めた。



「ごめんなさいね、疲れたでしょう?」

「少し。ですが、祖父の名代を務め、今後爵位を継ぐのならば避けては通れない事でしょう」


 システィアーナが疲れた笑顔で少しと言う時は、少しではないと知っている王妃、側妃、母は、苦笑いで頷く。


 ──そう。この茶会は、エスタヴィオが決めたシスティアーナの婚約解消における慰謝料請求の後始末でもあったのだ。


 侯爵家跡取り娘というだけでなく、次期女公爵として領地を持ってしまった以上、羨望、嫉妬、反発などを受ける事は避けられない。


 王妃が高位貴族の夫人達を招いた茶会で、序列の高い位置に座らせ、次期女公爵として紹介することで、異議を認めないと表明したのである。


 茶会で夫人が王妃から仕入れた新しい情報は、夜会で当主達の取引に使われたり、有力情報として扱われる。


 王妃が宣言したことを覆す事は、叛意ありとみなされるため、今後、表立ってシスティアーナの爵位について批判的な言葉を口にする事は出来なくなった。





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