婚約破棄後の立ち位置と晴れない心

第1話 次期女侯爵

 王城の政治に関する表宮殿から後宮へ向かう渡り廊下の左右に、胸元までの高さに綺麗に刈り込まれた灌木の迷路や噴水、手入れの行き届いた芝生の広場を囲う花壇などが目を楽しませる庭園がある。


 警備の面から、目を隠すような高い木は、奥宮の背後の森や嵐が荒れた時のための防風林程度で、視界が開けていて、かなり広く感じるつくりである。


 後宮の中の一角、王妃宮の前庭にテーブルが数点設置され、テーブルの数だけのワゴンに王妃付きのメイドがついている。

 簡易焜炉にて沸かされたお湯が配られていく。


「皆様、本日は妾の わたくし お茶会にお越しくださりありがとうございます。宮殿での格式張った物ではないので、気を張らずにゆるりとしてくださいね?」


 格式張った物ではないからゆるりとしろといわれてマナーに違反を犯すような者は、この場にはいない。

 そのような者は初めから招待されないからだ。


 王妃に招待されるということは、それだけ信頼を置き人品を認められた、地位のある証でもある。


 王族とされる公爵家の夫人はほぼ全員に加え、王族を除く貴族の頂点である侯爵家の夫人が王妃の近い席に配置され、伯爵家の夫人まではおおむね全員に招待状が届いていた。


 一貴族の開くお茶会と違い、王妃の主催するものは基本的にただのおしゃべり会とは違うため、準男爵や騎士爵など王宮の奥に立ち入る権利のない者は勿論、男爵や子爵夫人も参加権はない。


「システィアーナ、緊張しているの?」


 公爵家の中でも家格の高い家名の夫人から順に、主催の王妃、共催の第二側妃へと挨拶をしていく。


 今回は、オルギュストと婚約を解消後初のお茶会であり、宰相ハルヴァルヴィア侯爵の令嬢としてではなく、ドゥウェルヴィア公爵家の時期女当主として招待されていたため、母エルティーネよりも先に、公爵家でもかなり早い順位に立たされていた。


「申し訳ありません。宰相の娘としてではなく、ドゥウェルヴィア公爵の孫として表に出るのは、外交政策の時の王女殿下のお供くらいでしたので⋯⋯」


 まわりから値踏みされている視線をひしひしと感じていた。


 オルギュストと婚約を解消したことはすでに知れ渡り、先日、その代償として領地譲渡や慰謝料が支払われた事からも、茶の席に着く時に読み上げられた家名コンスタンティノス──は、王家にしか名乗れないものである──からも、システィアーナは、出席者の中でも序列が上であることを指していた。


 祖父、先々代王弟ドゥウェルヴィア公爵は外交と貿易に明るく存命の王族の中でも、国王エスタヴィオ、前国王ウィリアハム大公に次いで、五代前の女王の王妹の曾孫エステール女公爵と並ぶ、エスタヴィオの弟達にも一目置かれる権力者でもある。


 ロイエルドに嫁してなければエルティーネの役割であり、 本人エルティーネの言葉を受け入れるなら祖父の死後、公爵位は返上してもよいとのこと、自分には過分な身分だと思っていたシスティアーナには、値踏みする気配に、茶会開始早々に帰りたくなっていた。




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