第42話 素直で真っ直ぐなリーナ
いつもユーフェミアと一緒にいる訳ではないが、この日は後宮での王妃主催のお茶会で、いつもよりドレスも飾りもきっちりと、侍女によってセットされた。
朝早くから朝食よりも先に蒸し風呂に入れられ、身体の隅々まで磨かれたので、食事をするころには少しぐったりしそうになった。
「シスは、わたくしと一緒に登城しましょう。リーナは今日は何の日だったかしら?」
「はい。午前中は、お国の歴史と文化を、午後からは刺繍とダンスの練習ですわ、お母さま」
小さな口いっぱいに頬張ったサラダを慌てて咀嚼して飲み込み、元気に答えるソニアリーナ。
「そう。では、お城から戻ったら、刺繍の出来を見せてちょうだいね」
「はい! 歴史の問題も出してくださいね」
基礎的な淑女教育もマナーに関してはほぼ終わり、基礎教養に力を入れているリーナは、今は学ぶことが楽しくて仕方がないらしく、いつも張り切っている。
(わたくしも、厳しいマナー講座から解放された後のお勉強が楽しかったわね)
外へ出すと少なからず男の目に入ったり、令嬢が男性を目に留めたりするからだ。
貴族階級の婚姻は、利権の絡む家同士の契約でもあるので、なるべく、令嬢が駆け落ちをしたり親の言うことを聞かなくならないようにするためでもある。
システィアーナはオルギュストの婿入りが決まっていたため、また、王女達と学び公務に付き従っていて時間に余裕がなかった事もあって、いずれにも通ったことはなかった。
リーナは、12歳になった翌年の初夏から、
それまでには、礼儀作法とマナー、基礎教養は完璧に、出来れば何か1つ特技を身につけておきたいところ。
「刺繍は、エルにいさまのイメージで、金糸と若草色で、初夏の新緑を刺すつもりなの」
エルネストも、母方からも父方からも王族の血をひいているので、見事な金髪が特徴的で、青い目やヘーゼルの目が多いこの国では珍しい、薄い
過去の王に、東国の王族の姫を娶ったことがあるゆえの隔世遺伝だろう。
「本当に、リーナは、エルネストが大好きなのね」
システィアーナが言わずにいた事を、母であるエルティーネがズバッと言い放つ。
別に嫌な気はしないのだろう、頰を染めてはにかみ微笑むリーナ。
リーナはまだ子供だからか純粋で、まっすぐに「大好き」と言えるのが、システィアーナには少し羨ましかった。
自分は、誰かをまっすぐに「好き」と言えるだろうか。
自分だけの王子になってくれると期待したオルギュストへの夢が破れた事も起因するのだろうが、婿を取らねばという事ばかり気がいって、この先誰かと縁があっても、もしかしたら純粋に好意を向けられる事は出来ないのではないかという気がした。
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