システィアーナの婚約者
第1話 女公爵
正式にオルギュストとの婚姻契約は解消された。
既にオルギュスト本人は破棄したつもりなので、それならばと、公爵家有責での婚約解消による慰謝料と称し、多額の金品、隣接する領地の一部をシスティアーナ預かりの統治領と譲渡する事で、公爵家のオルギュストへの教育の失敗の償いとされた。
システィアーナは固辞しようとしたが、王命を反故にする臣下をなんの罰も与えずに放置することは、国王の威光を損ねる事であり、見逃しては今後も、反故にしても許されると踏んで王命を軽んじる輩が出ては困る事や、形として罰を受けたことを内外に知らしめる必要がある事、良きパートナーと添える貴重な若い時間を無駄に過ごさせ、寄り添う努力を
譲渡される領地の名義は、ハルヴァルヴィア侯爵領ではなく、システィアーナ個人の物である事。
今後、ハルヴァルヴィア領主がロイエルドやアレナルハウディス家でなくなっても、この領地はシスティアーナ・リリアベル・アレナルハウディス=ハルヴァルヴィア侯爵令嬢のものであり、この領地でのみ、システィアーナはアレナルハウディス家長女ではなく、『システィアーナ・リリアベル・コンスタンティノス家次期女当主=ドゥウェルヴィア公爵令嬢』という肩書になるのだという。
「すみません、意味がわかりません」
「そのまんまだよ。譲渡される土地は、ハルヴァルヴィア侯爵領になる訳じゃない。システィアーナへの慰謝料だから、個人の持ち土地だ。そして、この領地で運営していく上では、君の祖父──僕の大叔父だね、ドゥウェルヴィア公爵の跡取りとしてみなされるという事」
「それは、母なのでは?」
「エルティーネは、ロイエルドの妻として、アレナルハウディス家の籍に入ったからね。代行を兼任することは出来るけど、正式に女公爵を継ぐなら、侯爵夫人である事を解消して新たな伴侶を迎えなければならない。それは困るだろう?」
(お祖父さまは先々代国王の王弟だから、三代目⋯⋯わたくしまでは王族公爵家になる。お母さまに他の兄弟がいらっしゃらないから、お母さまかわたくし、もしくはソニアリーナが継ぐことになる。
お母さまが継ぐためには、侯爵夫人を降りて女公爵となり、家名を継ぐ直系の子をもうけるために、伴侶を迎えなければならない⋯⋯そんな事は、お父さまと別れるなんて、他の夫を迎えて新たな子をもうけるだなんて⋯⋯)
それはどれだけ辛いことだろう。
本来そうするべきであったのに、婿養子を迎えて王族の女公爵として立つ準備をするべきであったのに、敢えてアレナルハウディスの籍に入りロイエルドと婚姻するほど、想い合っている睦まじい両親を別れさせる事など、システィアーナには出来なかった。
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