第2話 理想の婿がね



 王女達のお茶会は少しも楽しめなかった。

 システィアーナの心に余裕がなくて、上の空に近い返事しか出来なかったのだ。


 その事を、ユーフェミアもアルメルティアも責めなかったが、その代わりにあれこれ訊かれて、しかもそれに答えられなかった。


 ──王女殿下達には申し訳ないことをしたわ。


 だが、次の婚約者は誰がいいか、とか、誰だったら嬉しいかとか、お兄さまはどうかとか、女公爵になったら、何をしたいか、など、答えられない事ばかり訊いてくるのだ。


 お兄さまというと、既に王子妃を娶っているフレキシヴァルトは違うだろうし、アレクサンドルは王太子だ。婿に迎えられるわけがない。


 隣国へ外遊中のデュバルディオは、一つ年上で年齢的にも近しく悪くはないが、隣国の王女を母に持ち、多くの国々を訪問しては外交と諜報活動に関わっていて、将来は外務大臣になると思われる。これまた婿に迎えられるとは思えなかった。


 第四王子のトーマストルはまだ12歳で、アルメルティアより幼く、兄ではないしシスティアーナにとっても対象外と言える。


 ドゥウェルヴィア公爵を継ぐとしても、ハルヴァルヴィア侯爵を継ぐとしても、婿に迎えるのには、システィアーナが女当主として努めるのを支え、時に癒やし、共に領地を守っていくのを手助けできる人物でなくてはならない。


 貴族子息には、高位貴族家に生まれた事に対する矜持が高く扱いにくい人物や、逆に、何でも与えられて自分で手に入れることを努力してこなかった、甘ったれた子供がそのまま大きくなったような者も少なくなく、この歳になれば、条件のよい者ほど早くから婚約者が決まっているものだ。


 そうそう容易には、次の相手を見つけられるとは思えなかった。


 ──エルネスト兄さまやオルギュスト様のように、騎士として仕えながら、領地を守る勉強をされている方が理想なのだけれど。


 王宮で官僚や、特殊な職業に就いている者は、婿に迎えても領地管理に携わる時間をとれない可能性もある。

 次男坊──嫡男のスペアとして領地管理を担いながら、自身は役職に就くことなく家にいる者──が、システィアーナの考える理想の婿であった。


 実際に何年か実務経験があればなおよろしい。


 が、そのオルギュストには疎まれ、エルネストはまた従兄いとこであり母親も父親も公爵家王族筋の嫡出子で、縁を結ぶと権力集中だと、他の高位貴族から誹りを受ける可能性がある。


 人生、なかなかうまくはいかないのであった。




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