【KAC20219】ソロプレイヤーを勧誘し隊!
海星めりい
ソロプレイヤーを勧誘し隊!
VRMMO〝シャイニーリンクオンライン〟。
〝皆で紡ぐファンタジー!〟をキャッチコピーに瞬く間に勢力を広げた新進気鋭のMMORPGソフトだ。
VRMMOとしての完成度の高さはもちろんだが、特出すべきはゲーム内における交流の手軽さによって、普段あまりゲームをしないプレイヤー達――所謂、ライト層を大量に取り込んだのが人気の要因といえるだろう。
ゲームシステムとしては、普通のMMORPGの要素の他にプレイヤーと繋がりを持つことで色んなクエストや恩恵を受けることが出来る、といった一風変わったシステムを採用している。
ようはフレンドを沢山増やして、ギルド作って、楽しむような陽キャならば楽しみながら強くなれるということだ。
逆にいえば、人と話すが苦手だったりすると、このシステムの恩恵に与れないということになる。
もっとも、少人数で楽しむスタイルも想定されているためそこまで大きな問題にはなっていない。
運営のスタンスとしては、MMORPGは大人数で楽しんでこそ、といった感じだ、と理解しておけばいい。
そして、今、一人の少女が〝シャイニーリンクオンライン〟の世界において、新たな一歩を踏み出そうとしているところだった。
*********************
第三都市〝ワナティア〟大通り。
(こ、この街に沢山のプレイヤーがいるって、掲示板で見たから来てみたけど……あんまりいない?)
フルフェイスの兜に身体全体を重厚な鎧で覆っている少女は大通りを見回しながら立ち止まっていた。
他者からみれば、性別不詳の鎧姿の彼女の頭上には白字で『エリン』と書かれていた。
街を行き交うプレイヤーはそんな彼女の白字の名前を物珍しそうに見ていく。
それもそのはず、この世界において白字の名前というのはフレンドも一人もいない、ギルドにも所属していない……完全ソロのプレイヤーをさすものだからだ。
(み、見られてる!? だ、大丈夫、見られてるってことは興味を持たれているってこと……好きの反対は無関心なんだから、誰か声をかけてくれるのを待つ! さぁ、こい!)
そう、彼女――エリンは別にソロプレイヤーがやりたいからやっているわけではない。
コミュ障が足を引っ張り、オープンからフレンドも作れず、ギルドにも入れず……ぼっちギルドを作ったら抜け出せそうになかったので諦めたという経歴の持ち主だ。
ただ、そこでこの世界から永遠に出て行くことをしなかったのがエリンだ。
(足を引っ張らない程度にはレベルも上げているし、装備だってちゃんとしてきた。き、今日こそギルドに入る!)
ソロプレイヤーながら、レベリングと装備の強化に勤しんで、ギルドに入ろうと努力していた。
ちなみに、ギルドに入るという宣言は今日で三日目だ。
すでに小一時間ほど立ち尽くすエリンの背後から一人の少女が近寄ってきていた。
「もし、そこのキミ……ちょっといいかね?」
(わ、わたし!? いや、私なわけないよね。だって、後ろからだし……名前も呼ばれてないし。今日もダメならどうしよう……いっそギルドぉー! とか叫んで、そんなの無理!? ギルドに入れるよう神像でも彫るとか……)
「……聞こえていないのか? 寝落ち? いや、今かすかだが動いたな、ここはもう一度話しかけてみるとしよう、ちょっといいかね?」
エリンの目の前へとやって来た少女はピョン! と跳ねて、フルフェイスの兜を正面から軽く叩いた。
ガシャン! という音と衝撃がエリンを襲う。
「うひょぉあ!?」
「……ふむ、聞いたことのない挨拶だ。だが、せっかく反応してくれたのだ。ここは私も同じ挨拶を返すとしよう〝うひょぉあ〟と」
(な、なにこの人!?)
混乱するエリンを余所に少女は独りでに話はじめる。
「私達は仲間を増やして次の街へ行くことを信条としているギルド〝アドバンスアドベンチャー〟だ。キミに話しかけたのは他でもない……「あーっ! ようやく見つけましたよアヤさん!」む?」
とここまで少女――アヤが語ったところでさらに二人の少女が顔を出した。
「なんだ、メルルン君とシェラ君か。どうかしたのかね?」
(ふ、増えた!? 私の周りに人が三人も!? あわわわわわ!?)
しれっと対応するアヤと比べてエリンの混乱具合はさらに激しくなっていた。自分の周りに人がこんなにいる状況になれていないからである。
アヤにシェラと呼ばれた少女が、ため息を吐きながら、もう一人の少女――メルルンと一緒に近寄ってくる。
「なんだ? じゃ、ないっしょ。アヤさんは勝手にいっちゃうんすから……メルルンと二人で探したんすよ?」
「そうですよー。アヤさんはちっこいんだから、突風にでも飛ばされたのかと思って街の外まで探してようやく見つけたんですよ!」
「それはすまな……ん? さすがに風には飛ばされんよ? キミ達、実はたいして探していないな?」
首を傾げながら、二人に詰め寄るアヤだったが、シェラが誤魔化すように口を開く。
「まーまー、細かいことは置いといてさ、アヤさんはこの鎧の人と何やってたの? 道案内?」
「違うなシェラ君。勧誘だよ」
「は? 勧誘?」
「そうとも」
あっけらかんと答えたアヤに対し、シェラとメルルンは目をパチクリとさせた。
どうやら、ちょっと目を離した隙にギルドマスターが勧誘をしているとは思わなかったらしい。
「え? アヤさんどういう経緯でこの人に声かけちゃったんです?」
「よくぞ聞いてくれたぞ、メルルン君。この重厚な鎧姿、そして、孤高ともいえる立ち振る舞い……それを見てピンときたのだよ」
「あー、要するにただの直感ってことですね。でも、今の姿をみていると孤高というより、挙動不審ちゃんっていうか、迷子ちゃんみたいな印象受けたんですけど……」
確かに、今のエリンの姿はオロオロとしている様子が鎧姿でも確認出来る有様だ。メルルンがそう思うのも無理はないだろう。
「えっと、シェラはそこんとこどんな感じで?」
「なんでウチにふるん? ま、アヤさんが目をつけたんなら、なんかあんじゃないの?」
「さすがシェラ君だ。もっと褒めたまえ」
「うっざい」
少し褒めればさらに催促してくるアヤの手をシェラはふりほどくと、それ以上言う気はないのか黙り込む。
「で、どうかねエリン君。キミさえよければ〝アドバンスアドベンチャー〟に入ってみないかね?」
「今なら、特別に初回無料ですよ。さらに、ギルド員限定のワッペンと幸運のツボのおまけ付き!」
アイテムボックスから取り出したのか、メルルンがワッペンとツボを片手にエリンに迫っていく。
じりじりと詰め寄られたエリンは、
「え、あの、その……はい」
頷いてしまった。
「「いえーい!」」
とハイタッチするアヤとメルルンを見ながら、シェラはため息をはいた。
「いや、悪質な宗教の勧誘じゃないんだからさ……ていうか、アンタいいの? なし崩し的に入っちゃって? ウチらはこんなんなんだけど?」
「さ、誘ってもらえて嬉しかったので、大丈夫です」
元々、誰かに勧誘してもらいたくて、立っていたのだ。
〝アドバンスアドベンチャー〟は確かに変わったギルドかもしれないが仲は良さそうだった。リアフレか何かなのだろうか。
「そ、ならよろしく。ウチはシェラ。スキル構成はガンナータイプ、よろ」
そう言って、シェラはエリンと軽く握手をする。
それを見て、騒ぎ立てるのはメルルンとアヤだ。
「あー!? シェラだけなんか一足先に仲良くなってるー!」
「なに!? 抜け駆けはいかんよ、シェラ君。私達〝三人生まれた日は違えども生死を共にする三姉妹〟だと……」
「いや、そんな桃園の誓いみたいなことしてねーから。というか、アンタらもやればいいでしょうが」
それもそうだと呟いたアヤとそれに続けてメルルンもエリンと握手をする。
「改めて、私はギルドマスターのアヤだ。スキル構成は知的の化身、賢者を目指している。よろしく頼むよ」
「メルルンだよ、よっろしくー! スキルは戦士系アタッカー! 攻メルルーんって、攻撃していくからね!」
「は、はい! エリンです。よろしくお願いします!」
こうして、〝アドバンスアドベンチャー〟に新たな仲間――エリンが加わったのだが、
「はぁぁぁぁぁぁー!」
ズバン! とエリンが大剣を振り下ろせばモンスターが一刀両断で切り裂かれていく。
それに目を白黒させているのは、アヤ達だ。
「彼女……私達よりも強くないかい?」
「強くないかい? じゃなくて
「なんかさ、すんごいブラックギルド感あるくね? 新人働かせて、ウチらは後ろで見てるだけって……楽だけどさ。ちがくない? RPGってこういうんじゃなくない?」
困惑する三人をよそにエリンは初ギルド、初フレンドにテンションが振り切っていた。
「皆で冒険って楽しいですねー! あはははははははははは!! 皆さぁーん! はやくいきましょー!!」
「ま、まちたまえ!? 私を荷物のように小脇に抱えるのはやめたまえ!?」
「ちょっ!? 運ぶならアヤさんだけに――きゃあ!?」
「え!? ウチも!?」
ギルド〝アドバンスアドベンチャー〟の楽しくも騒がしい冒険は続いていくのだった。
「さ、三半規管が……」
「……ジェットコースターよりジェットしてましたよ」
「ヤバっ、酔うって……」
「あわわわわわわわわわ!? 皆さんごめんなさーい!?」
【KAC20219】ソロプレイヤーを勧誘し隊! 海星めりい @raiki
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