ソロには活動限界があるらしい
よすが 爽晴
だから引退ってあるのかもね
孤独は、一人というわけではない。
感性と言葉は人それぞれで、寂しさも人それぞれだから。だからこそ、今の私にこの言葉達は似合わない。
「ソロ活動かぁ」
けど、本音を言うなら少しだけ。ほんの少しだけ、不安もある。
今まで大人数の中の一人として活動をしてきたからこそ、ソロの歌手になるのはわからない事だらけだし。楽屋に飾られたポスターに目をやりながら、私はそっと頬を緩めた。不安だけど、楽しみだから。
「私、一人でやれるかな」
握りしめた拳の中で、言葉を零して。
大丈夫だよって、他でもない私に言い聞かせていた。
***
そんなソロデビューから、どれだけ経っただろう。
たくさん大変な事も苦しい事も、もちろんあった。けどがむしゃらに走って、頑張った。そんな私は今――
『みんなありがとうー!』
正直な話、一人の方がめちゃくちゃ楽しい。
声を張り上げると、アリーナには歓声が響く。全部、全部私だけに向けられたものだ。私だけの、応援だ。
今まで仲良く分けていたそれが一人で受け止めていいのだと思うと、なんだか心がウキウキする。まだ不安は少しあるけど、それでもじゅうぶん充実していた。
「次の仕事は、少し間があるから……」
ぐっと背伸びをして、ストレッチをする。考えてみれば、楽屋でもグループにいた時は気が抜けなかった。誰かに意識を向けて、周りに気を配って。そう思うと、私はもしかしたらグループ活動が向いていなかったのかもしれない。
「そうだよね、きっとそうだ」
とびっきりの笑顔と一緒に、私は小さく呟いた。
マネージャーが迎えにくるまでなにをしようか、そんな事を考えながら。ふと近くにあったリモコンに手を伸ばして、私はテレビの電源を入れた。
どの局もこの時間は当たり障りのないバラエティ番組ばかりで、すぐにチャンネルを切り替えていく。暇つぶしになるのはないかなと、変えた番組はあるロケ番組で。
「……あれ?」
そこには、当時の私が所属していたグループのメンバーが映っていた。
私が抜けた後、メインボーカルを失ったグループはバラエティ路線へ変更をしたらしい。それはアイドルなのだろうかとは思ったけどなかなか当たりだったみたいで、今では数人単位で切り売りされてテレビに引っ張りだこ……らしい。私の事じゃないから、知らないけど。
「……へぇ」
本当に、ただの興味本位だった。
あの時私と一緒に歌っていた皆が今どんな活動をしているのか、それが少し気になっただけ。
いつかと同じように自分へ言い聞かせながら画面を見ると、みんなは楽しそうに笑っていた。楽しそうで、私がいなくても元気だった。
「…………」
なんだろうか、心にぽっかり穴が空いたような感覚は。そんなまさか、間違っても寂しいわけじゃない。孤独を、感じているわけではない。
強いて言うならばきっとこの感情は、私がいなくてもやっていけていてそっちのが楽しそうなみんなが悔しいからだ。私がいなくても、みんなが楽しそうだから。
「……なんだ」
私、いらなかったんだ。
確かに、みんなといるから孤独に感じていた。だから、一人になった。ソロ活動は順風満帆で楽しかったのに、こんなのを見せられたら心は揺らぐに決まっているから。
あれ、私――なにがやりたかったんだっけ。
ソロには活動限界があるらしい よすが 爽晴 @souha
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