第39話 それぞれの進路

 ◇高三、冬◇


 高校三年生のとき、僕は美術同好会を美術部にすることに成功した。

 海先輩は卒業してしまったが、四人の一年生が入会してくれた。僕と津村くんと一年生とで合わせて六人。五人を超えた。校長先生は約束どおり部への昇格を認めてくれた。柴先生も喜んでくれた。

 そして冬。僕は高校卒業を間近に控えていた。

 卒業後、伊藤さんの会社に就職することが内定していた。

 りりかの進学も決まったらしい。

 筆子と付き合うようになってから、りりかと会うことはほとんどなくなっていたが、進路が決まった日、彼女はひさしぶりに僕の部屋へやってきた。

「大学の観光学科に合格したの」と彼女は言った。

「観光学科か。旅行会社にでも入りたいの?」

「ちがうの。旅行会社を興したいの」

「起業するの?」

「うん。どこにも旅行に行けない体の不自由な人を、あたしの魔法で旅に連れていってあげるの。そういうことのできる小さな会社を作ろうと思ってるの」

「それは素敵な会社だね」

「でしょう?」

 りりかは彼女の魔法をそういうふうに使おうと決めたのだ。

 僕も絵画魔法を使って生きていくつもりだ。

 りりかは長居することなく、話が終わると瞬間移動で帰っていった。

 筆子は漫画の連載を続けている。初の単行本も出版した。「魔球対剛球」第一巻だ。大ヒットというほどではないが、そこそこ売れているらしい。

 その漫画の背景は、僕が描いたものも多い。

「就職したら、今までみたいにはアシスタントはできなくなると思う」

 筆子の仕事を手伝いながら、僕はそう伝えた。

「それはちょっと痛いなぁ……」と筆子は嘆いた。「誰かアシスタントを探さなきゃ。編集部と相談する……」

「ごめんね」

「あ、謝らないで。虹くんが自分の仕事を優先するのは当然だよ……」

 四月になったら、僕は伊藤さんの会社で働き始める。

「虹くんはずっと絵画修復の仕事を続けるの?」と筆子に聞かれた。

「どうだろう。ずっとかどうかはわからない。でもしばらくは伊藤社長のところで働くよ。社長はこの世界の第一人者で、すごい名画の修復を頼まれることもあるんだ。やりがいのある仕事だと思う。僕の力が役立ち、貢献できるなら、思いっきりやってみたい」

「イラストレーターにはならないの?」

「いつかチャンスがあればね。でもしばらくはその仕事をやる」

 僕たちはまだ十八歳だ。

 これからどんなふうに生きていくのか、まだわからない。

 長い年月をかけて、僕は絵嫌いを克服した。

 筆子やりりか、黒山月夜さん、海先輩、伊藤社長、その他いろいろな人のおかげだと思う。

 僕は絵を描くのが好きになった。

 大好きだ。

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