第36話 失恋
「ついに付き合い始めたか」とりりかは言った。
喫茶店で僕と筆子がお茶しているところに現れたのだ。瞬間移動ではなく、普通に僕たちを見かけて、店に入ってきた。そして雰囲気を察し、そう言った。
「うん」と僕は答えた。
「そっか。やっとそうなったか」
「告白したのは一週間前だよ」
「今までだって付き合っていたようなもんだと思うけどね。いつもべったりだった」
「そうかな」
「そうだよ」
「はぁ……。あたしは失恋したなぁ」
りりかが不思議なことを言った。
「失恋?」と僕はつぶやいた。いつ彼女が失恋したのだろう。
「ごめんね、中州さん……」と筆子が言った。
「いいよ。いつかこうなるとわかってた。これであたしも他の人を好きになれるよ……」
りりかはつらさを無理に我慢しているような泣き笑いの表情になっていた。
えーっ? まさか……。
「虹くんは鈍感だから……」
「ほんと、虹は鈍感だよ」
うそだろ?
「あたし、これまで何度も他の人からの告白を断ってきたのよ。一縷の望みを抱いていたから」とりりかが僕を見て言った。「虹のことなんかほっといて、誰かと付き合えばよかった。長過ぎる片想いだった。やっと終わったよ」
彼女は泣いていた。
りりかが僕を好きだった? 恋愛的な意味で?
気づかなかった。幼なじみで、すごくいい友だちだとばかり思っていた。
りりかはそれ以上何も言わず、背中を見せて、喫茶店を出て行った。
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